通販事業者は“物流危機”にどう対応する?“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)

» 2017年03月07日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]
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自社配送サービスが一気に拡大する可能性も

 場合によっては、今回のヤマトの対応をきっかけに通販事業者側が自社配送を一気に強化する可能性もある。アマゾンは、お急ぎ便のサービスに加えて、有料会員を対象にアプリを通じて注文した商品を1時間以内に配送するサービス「Amazon Prime Now」も提供している。1回当たり2500円以上の注文が条件で、890円の配送料がかかるが(2時間以内でよければ無料)、運送会社ではなくアマゾンのスタッフが商品を直接配送する。

 家電量販店大手のヨドバシカメラも2016年9月から、ネットで注文した商品を最短2時間半で届けるサービス「ヨドバシエクストリーム」を開始。全ての商品が対象になっているわけではないが、自社の配達要員が2時間半で配達する(配送料は無料)。

 同様のサービスには、ディスカウント・ストア大手のドン・キホーテも参入している。同社の「majica Premium Now」サービスは、専用サイトで注文した2000円以上の買い物について、最寄りの店舗から最短58分で配送してくれる。対象エリアは店舗から半径約3キロ以内で750円の配送料がかかるが、2時間枠内での配送でよければエリアが半径5キロに広がり配送料も無料だ。1店舗からのスタートだが、対象店舗を広げていくとしている。

photo 「majica Premium Now」

 これらのサービスには当然のことながらコストが掛かるが、顧客の囲い込みにつながるのであればメリットは大きい。体力のある通販事業者は自社配送を強化し、それ以外の規模の小さい通販事業者はヤマト運輸や佐川急便など既存の運送事業者を利用するといったすみわけが成立するのかもしれない。

宅配業界を一変させるイノベーションが加速する?

 これらはあくまで短期的な影響だが、中長期的には全く別の動きが出てくる可能性もある。このところ自動運転の技術が急速に発達しており、従来よりも少ない人数でより多くの荷物を配送できる可能性も見えてきている。人手不足の問題を改善できるどころか、場合によっては余剰人員の問題さえ発生する可能性もゼロではない。

 もう一つの大きな流れはシェアリング・エコノミーを使った配送業務の完全オープン化である。アプリなどで配送業務を実施してくれる個人を広く募り、その個人に配送を委託するというものだ。米アマゾンは既に具体的な導入検討に入っている。

 従来型の配送インフラが確立していない中国では、配送要員を随時アプリで募集するシステムが既にビジネスとして確立している。日本の利用者はヤマトや佐川といった大手運送事業者のきめ細やかなサービスに慣れており、シェアリング・エコノミーによる不特定多数の配送スタッフの来訪はあまり望まれないかもしれない。だが、大手による従来型サービスが持続不可能ということになれば、こうした新しい配送スタイルが普及し、既存の業界秩序を一変させる可能性も十分にある。

 ヤマトが取扱量の抑制や値上げといった交渉をしている間に、オープン化によって一気にシェアを奪われてしまう。そのような可能性も決してゼロではない時代に入ってきている。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。


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