ぺんてるのサインペン “書きやすさ”の理由ロングセラー商品(2/3 ページ)

» 2017年04月24日 08時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]

米国から逆輸入

photo 発売当初の販促用ディスプレイ。用途が写真で紹介されている。当時は1本50円だった

 これまでにない筆記具として開発し、自信を持って市場投入したものの、サインペンは全く受け入れられなかった。日本では印鑑を使用することが多く、サインをする文化がなかったからだといわれている。そこで、発売の翌年、米シカゴで開かれた文具見本市に出展。サンプルとして、来場者にサインペンを配った。それがターニングポイントとなる。

 配布したサインペンは大統領報道官の手に渡り、それが当時のジョンソン大統領の目にとまった。その書きやすさを気に入った大統領は、24ダース(288本)をまとめ買い。その話が雑誌『Newsweek』で取り上げられると、サインペンは全米で大ヒットした。その後、NASAの公式筆記具として宇宙で使用されたことも大きな話題となった。無重力空間でもインク漏れせずに使えることから採用されたという。こうして、米国からの逆輸入という形で、日本でも人気に火が付いた。

品質で粗悪品を淘汰

 サインペンは簡単に手に入る商品であるため、ヒットすればすぐに類似品が出回るのではないか。そんな疑問に対して、マーケティング推進部の内村篤史さんは、「確かに、まねをされたと聞いている。しかし、“品質第一”を徹底した結果、(質の悪い商品は)自然と淘汰された」と説明する。

 目指してきたのは、「筆のようにしなやかで、ボールペンのように持ち歩きができて、万年筆のように滑らかに書ける」ペン。書きやすさ、使いやすさを向上させるため、数多くの改良を重ねてきた。サインペンや筆ペンなどの開発によって注力してきた品質への取り組みは外部からも評価された。76年には、総合的品質管理を効果的に実践する企業などに贈られる「デミング賞」を受賞している。

 しかし、発売当初から安定した品質を保っていたわけではない。発売翌年には、ペン先の金属が腐食し、インク漏れが発生するトラブルがあった。そのときは、防錆処理を施したペン先を開発するだけでなく、全世界に手直し員を派遣し、ペン先の交換を実施したという。その後も、不便さを解消するため、ペン先やインクなどに改良を加えている。

 一方、見た目のデザインは当初からあまり変わっていない。長いキャップや六角形の軸を備えたシンプルな形が定着し、外観そのものがブランド力を持っている。実は、そのイメージを変えることなく、キャップや軸も改良している。86年、本体に使用するプラスチックの種類をスチロール樹脂からPP(ポリプロピレン)に変更した。それによって、キャップの密閉性を高め、ペン先から蒸発するインクの量を減らした。

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