実は排ガス規制をクリアさせる方法は既に四輪車で確立されており、技術的にはできないことではない。精密な吸気量測定とインジェクション、それに三元触媒を組み合わせれば良い。
しかし、この三元触媒は貴金属を原料としており、高価なものだ。低価格が売り物の原付一種に搭載できるかと言われれば難しい。コスト以外にもスペースの問題や、パワーダウンの問題があり、さらにこの排ガス対策装置の異常を検知する装置(OBD)の取り付け義務化などコスト増の要件が山盛りだ。排ガスとは関係ないが、アンチロックブレーキの義務化もある。
さらに追い打ちをかけるのが、次回の規制だ。まだ検討中とは言うものの、2020年ごろを目安に、EURO4より厳しいEURO5の適用が検討されている。コスト増の吸収余力のある中型車以上ならともかく、50ccにはあまりにも厳しい条件である。
こういう状況を背景にして2016年10月にはホンダとヤマハが原付一種領域における協業の検討を発表している(関連リンク)。規制は規制として、現実社会では50ccスクーターは必要とされているし、新聞配達に使われるビジネスバイクも「なくなりました」では済まない。
しかし、これらのバイクもどうやらエンジン付きではなくなる目算が強い。ホンダとヤマハの協業発表のリリースを見ると、既に電動二輪車の普及が強く意識されているのが分かる。今年の3月には日本郵政とホンダは電動バイクの社会インフラ整備に向けた協業を発表している(関連リンク)。つまり長年慣れ親しんできた郵政カブも遠からず電動化されるということだ。
そう遠くない将来、50ccのエンジン付き二輪車は日本から消える。これはもう疑いようのない流れだ。ホンダの加藤千明社長も、長期的に原付1種が内燃機関を主体として存続できるかどうかについて非常に厳しいという見解を示しており、電動化への流れを示唆している。
興味深いのは電動二輪車と充電インフラは郵便事業や新聞配達のようにビジネスツールとして不可欠な仕組みの中に位置付けられていることだ。そこがアーリーアダプター向け商品を脱却できていない電気自動車とは違う。シビアなビジネスの場で揉まれることで、電動モビリティの基礎が築かれていく可能性はある。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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