今治タオルの再興に向けて「もはや打つ手なし」と思われたが、地元関係者たちは諦めなかった。100年以上も今治の地で受け継がれてきたこの産業をなくすわけにはいかないからである。しかしその思いとは裏腹に、今治タオルの生産量は右肩下がりを続け、企業数や従業員数の減少にも歯止めが効かない状態となっていた。そんな折、中小企業庁が手掛ける「JAPANブランド育成支援事業」に今治タオルが採択されたのである。2006年のことだった。
JAPANブランド育成支援事業とは、地域の特産品や技術の魅力をさらに高めて、世界に通用するブランド力の確立を目指す取り組みを支援するものである。「今治ブランドの確立」を合言葉に、工業組合に加えて今治商工会議所、今治市が一丸となり、「今治タオルプロジェクト」がスタートした。
ただし、肝心な問題が1つあった。地元にはブランディングに長けた人材がいなかったのだ。そこで外部から招へいすべく白羽の矢が立ったのが、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏である。
すぐさま関係者は佐藤氏の元へ押し掛けるように訪問、本人に今治タオルのブランディングをお願いしたいと直談判した。一通り話を聞いた佐藤氏だったが、そのときは引き受けるつもりはあまりなく、ましてや今治タオルの存在もよく知らなかったという。
ところが、である。お土産にともらった今治タオルを使った瞬間、佐藤氏は衝撃を受けた。肌触りといい、吸水力といい、今まで使っていたタオルは何だったのかというほど、使い心地がまるで違ったのだという。こんな優れたコンテンツがあるなら、きっとうまくブランディングできるはず――佐藤氏はプロジェクトにかかわることを決めたのだ。
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