日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」に迫っていきたい。
先週、安倍晋三首相が衆院予算委員会で野党から憲法改正の真意を問われ、「自民党総裁としての考え方は相当詳しく読売新聞に書いてある。ぜひそれを熟読していただいてもいい」と答弁をして大騒ぎになった。
マスコミやネットでは「さすがにこれはひどい」「自民党総裁と首相の立場を使い分けるのは卑怯」「国会軽視だ!」なんて否定的な意見が溢れかえったのもまだ記憶に新しいが、その一方で「ああゆう言い方しかないだろ」と擁護(ようご)する声も少なくない。
マスコミではあまり取り上げられていないが、実はあの発言を引き出した長妻昭衆議院議員はこのように聞いている。
『次にですね、自衛隊、まあ憲法の問題でございますけれでも、総理がですね、私からするとちょっと唐突感があった訳でございますけれども、2020年までに新憲法施行というふうにおっしゃった訳でございますが、これの真意をおっしゃっていただければと思います』
丁寧なもの言いではあるが、改憲派が催した集会に寄せたビデオメッセージや『読売新聞』で語っていることをここでもう一度リピートしなさいよ、というわけなのだが実はこれは「トラップ質問」だったのだ。
予算委員会は基本的に「政府に対する質疑」だ。安倍首相は「政府の代表」という立場で答弁するので、現行憲法への不満などはすべてNGワードとなる。「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」という憲法第99条のからみがあるからだ。
つまり、もしあの場で安倍首相が『読売新聞』の紙面でうれしそうに語っていたことと同じような内容を少しでも口走ってしまった途端、蓮舫さんたちは「あーっ! 憲法擁護してないじゃん! はい、違憲! 国民のみなさーん、こいつ首相なのに憲法99条違反してますよ!」と狂喜乱舞し、「VR蓮舫」ばりの厳しい追及がスタートしてしまっていたのだ。
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