ミラ イースで始まる新時代のダイハツ池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)

» 2017年05月22日 07時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
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方向転換

 80キロもの軽量化を成し遂げれば、さぞや燃費も向上したのだろうと見てみると、意外や意外、先代とまったく変わらない35.2km/Lである。軽量化の恩恵はどこへ行ったのか? ダイハツではこの恩恵を基に走行性能を向上させたと言っている。具体的にはアクセル半開での発進加速や追い越し加速能力の向上が図られている。

 燃費だけに特化し過ぎても意味がないことは分かるが、かと言って、これまで長らく燃費戦争に明け暮れてきた軽自動車の新製品としては少々違和感がある。筆者にして見れば、「脇目も振らずずっと燃費命で開発をやってきたはずなのに、なぜその方針を突然変えたのですか?」と皮肉の1つも言いたくなる。カタログ燃費に固執してはダメだと何度も言ってきたではないか。

 ダイハツは先代ミラ イースが登場した2011年から2017年までの軽自動車を巡る環境変化を下図のように分析した。その結果、低燃費と低廉性はもはや当たり前のものとして、訴求点として成立しなくなったと考えた。それは既に基本でしかなく、商品としての魅力はそれに新たに加算されなくてはならない。

低燃費はもはや当たり前のこと。それ以上の付加価値が求められるとダイハツは考えた 低燃費はもはや当たり前のこと。それ以上の付加価値が求められるとダイハツは考えた

 ダイハツが考えた軽自動車の新たな価値は、「安全・安心」と「クルマとしての基礎能力向上」であった。いわゆる運転支援システムの充実はその1つだ。ぶつからないブレーキや警告機能、誤発進抑制機能に加え、オートハイビームなどが追加された。軽自動車のコストではハイグレード車のみに標準装備というところが限界で、下位グレードはオプション扱いとなる。

 これはライバルのスズキも同様だが、現在これらの装備は各社が装備しているが、一見似たような機能の割に歩行者や自転車の検知機能や、稼働速度域がバラバラな状態であり、その利害得失を見定めるのはかなり大変だ。恐らく今後数年の間に歩行者と自転車検知および全速度対応に流れていくはずである。

軽量化によって得られた利得を走行性能に振り向けるという考え方はこれまで見られなかったもの 軽量化によって得られた利得を走行性能に振り向けるという考え方はこれまで見られなかったもの

 さて、本題は燃費と引き替えにしたという走行性能だ。ハーフスロットルでの発進加速や、追い越し加速の向上は、多少乱暴な言い方をすればドライバビリティの向上である。エンジンや変速機の制御をひたすら燃費向上だけに振り向けてきたことを反省し、少なくとも資料を読む限りにおいてはドライバーの意思を正しく反映する方向に舵を切ったように見える。それは非常に好ましいことだ。実際のクルマがお題目通りになっているかどうかは試乗の機会まで結論を待ちたい。

アクセルを踏んだら踏んだ分だけ加速するという当たり前のことに回帰するまで、日本のメーカーはずっと燃費の妄執にとりつかれていたと言っても良い アクセルを踏んだら踏んだ分だけ加速するという当たり前のことに回帰するまで、日本のメーカーはずっと燃費の妄執にとりつかれていたと言っても良い

 いずれにしても、この基本シャシーはダイハツの今後10年を決めることになる。改良はされるだろうが、ブランニューでガラポンは当分ない。そして軽自動車のみならず、小型車もまたこのシャシーベースで作られていくはずである。トヨタから任されたASEANも、このシャシーが基礎となる。ダイハツにとって勝負のかかった新世代シャシーであることは間違いない。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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