日本水産は6月8日、これまで困難とされていたマダコの完全養殖技術の構築に成功したと発表した。マダコの養殖は、幼生が成長する前に死滅してしまうケースが多く、完全養殖の成功例は国内外合わせて数件しか報告されていなかった。
現在の魚介類市場では、タコ類は年間7〜10万トンが流通。その全てが天然の漁獲物で、養殖物は市場に出回っていない。そのため、事業化に成功した場合は水産業の在り方を大きく変える可能性がある。
天然のマダコは、卵から孵化した幼生が海中を浮遊したのち、海底に定着してから成長を始める。しかし、養殖では飼育環境の整備が難しいため、着底する前に幼生の大半が死んでしまうという。
こうした課題を解決するため、日本水産の大分海洋研究センターは、(1)親ダコに安定的に産卵させる技術の開発、(2)孵化幼生を飼育する環境の適正化、(3)稚ダコ飼育に適性のある肥料の開発――などの施策を実施。2015年には少数ながら稚ダコの人口種苗の生産に成功したほか、16年には数千尾の孵化幼生のうち数十尾の稚ダコ化を実現。養殖マダコの生存率を大幅に向上させた。
16年に誕生したマダコはその後、安定的に成長し、交尾・産卵を行ったという。そして17年4月には、研究センター産のマダコを親に持つ、数万尾のマダコ幼生が孵化。完全養殖の実現に至ったとしている。
ただ、現段階では稚ダコ初期の育成技術などに向上の余地があり、現時点での事業化は難しいという。日本水産の広報担当者は、「一部報道では20年にも養殖マダコを出荷予定とされているが、実際はまだ研究段階。事業化のめどは立っていない」と話す。
同社は今後、天然資源に依存しないマダコの安定供給体制を目指し、さらなる養殖技術の開発を進めていくとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング