カムリの目指すセダンの復権とトヨタの全力池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2017年07月24日 06時05分 公開
[池田直渡ITmedia]

 今回の試乗で一番驚いたのは、初めて運転席に座り、アクセルを踏んでハンドルを切ったとき、すべてが予測値と一致したことだ。現行プリウスとC-HRでは「一度操作してみて見込みとの差を補正する」という作業が必要だった。それは大きな補正では無かったし、珍しいことではない。補正を掛けても掛けても狙った制御ができないそれ以前のトヨタハイブリッドから見れば、大きな進歩ではあったが、カムリはその補正すら不要だった。

 乗った瞬間、「どうだスゴいだろう!」とばかりに濃い味付けを見せつけるようなものでなく、当たり前に思い通り動く機械。それは何も違和感の無い世界であり、セダンの王道を狙うカムリの評価を高めるものだった。

 カムリのハイブリッドシステムは、燃費を叩き出す特殊部隊であることをやめ、モーターによる「レスポンスの良さと低速での豊かなトルク」と、エンジンによる「高速性能」をドライバビリティー向上という新しい方向に使うハイブリッドであり、ハイブリッドが本来持っていたにも関わらず、これまで無視されてきたドライバビリティ向上のためのリソースに光を当てたものになっている。

新開発された2.5リッターエンジンとハイブリッドユニット 新開発された2.5リッターエンジンとハイブリッドユニット

 ただし、こうした使い方はすでにポルシェやフェラーリが先鞭を付けており、世界初というわけではない。それでもカムリ以前と以降ではトヨタ車におけるハイブリッドの意味が変わるほどのものであり、トヨタがTNGAでずっと唱えてきた「もっといいクルマ作り」がただの掛け声ではなかったことが証明されたと言えるだろう。

 トヨタは「セダンにわくわくやドキドキを」とか「エモーション」とか言うが、筆者から見たカムリは、そういうものとは少し違う。むしろ流行の言葉で言うならば「癒やし」のクルマであり、アドレナリンが吹き出してブンブン走りたくはならないが、リラックスしたままいつまでも走っていたいと感じさせてくれるクルマだと思う。

 さて、良いセダンを作ればそれで売れるという簡単な話ではない。セダン全体が地盤沈下し、注目度が下がる中で「乗れば分かる」と言ってもむなしい。振り向かせ、興味を持たさなければ何も始まらない。だからトヨタはデザインに注力したのだと言う。

 技術的にもいろいろと難しいことをやっている。とにかくすべてを低くした。フロア、着座位置、ボンネット、ルーフ。かと言って、ミニバンやSUVほどでは無いとはいえ、セダンの美点である室内空間を崩壊させては意味が無い。シート座面の後傾角や背もたれの角度を綿密に作り込んで十分な広さを確保した上で、すべてを低くしている。

 冒頭で説明したように、欧州では「広さを求めるならミニバン」という時代になったことを背景に、今猛烈な勢いでセダンのクーペ化が進行中だ。カムリはそこをグッと理性で堪え、後席乗員の頭をクリアするところまでルーフを下げずに頑張った。クーペ的に下がっていくのはそれより後ろである。

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