クマ被害を減らすにはどうすればいいのか 「観光」しかないスピン経済の歩き方(4/4 ページ)

» 2017年08月08日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]
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「放置」ではなく「整備」しなければいけない

 野生動物まで金もうけのネタにするなんて、自然を畏(おそ)れ敬(うやま)ってきた我々日本人には信じられないという人もいるかもしれないが、日本には海外の動物愛護団体から「商業目的の虐待飼育」と批判されている「クマ牧場」がある。

 経験豊富なレンジャーに引率された観光客から遠目で観察され、整備された自然のなかで駆け回るBC州のクマと、コンクリートの檻のなかで芸を仕込まれるクマのどちらが野生動物として幸せなのかは、言うまでもないだろう。

 文化財にも通じることだが、日本人はとにもかくにも手をつけないことが「保護」だと信じて疑わない。だから、文化財や自然を観光資源として整備しようという話が出ると、「マナー知らずの外国人観光客に日本の美しい自然や伝統文化が破壊される!」と半狂乱になる人が多いが、実は自然も文化財も手をつけないことで、衰退の一途をたどっているというなんとも皮肉な状況がある。

 本連載で何度か紹介している文化財保護会社を経営しているデービッド・アトキンソン氏など当事者はその危機が分かっているので、「放置」ではなく「整備」の必要を訴える。

 自然に関してもまったく同じだ。2013年2月14日のクローズアップ現代「ハンターが絶滅する!? 〜見直される“狩猟文化”〜」(NHK)という番組のなかで、猟師の千松信也さんがこんなことをおっしゃっている。

 「さんざんこれまで人間が自然に手を加えて、手付かずの自然なんてもう日本にはほとんど存在しないです。昔から人間というのは自然の一部として、関わりを続けてきた。さんざん手を入れて、ある一方でひどいことをして、それをそのまま放置するっていうのは、それ自体がさらなる自然破壊。決して自然は、そのまま放置しておいていい状態ではないというのが現状だと思います」

 人間が自然を制御できる、というのは大きな思い上がりだが、「いろいろ昔は荒らしたけど、自然なんだから放っておけば勝手に蘇るでしょ」という考えはそれ以上に傲慢(ごうまん)ではないか。

 自分たちが放ったらかしにして生息地を拡大させておきながら、そこで熊が好き勝手に振る舞うと、「害獣」として撃ち殺す。熊からすればこんな理不尽な話はない。熊たちが人間に牙をむくのは、そんな怒りからなのかもしれない。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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