レシピ本「歴メシ!」を重版に導いたのは「FGO」だった著者も担当編集者も“想定外”(2/3 ページ)

» 2017年08月10日 11時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

きっかけは「太陽神のパワー」

――こうして発売した「歴メシ!」は、発売1週間で重版がかかります。このスピードは予想していたのでしょうか。

 全く予想していなかったです。「きっとこの本はロングテールで読まれる本になるだろう」という予想から、初版部数は4500部。大手の出版社では少ないかもしれませんが、柏書房にとってはかなり挑戦している数字です。ところがそれが、発売1週間で3000部の重版をかけることができました。

――その要因となったのが「FGO」。いつ「FGO」効果に気付きましたか?

 7月24日に発売して、予想より良い出だしでした。遠藤さんの4年間の活動は料理好きや歴史好きの人から注目を集めていて、最初に狙っていた読者に着実にリーチしていました。ここからどうやって売り伸ばしていこうか……と考えていた矢先、「FGO」効果の予兆を感じるようになりました。発売4日目の27日、くまざわ書店大船店のTwitterアカウントで「これを食べ続ければ血肉の成分も偉人に近づき、即ちこれ究極のコスプレといえるのではないか」と紹介されて、「お?」と。そして一番大きかったのは「太陽神のパワー」です。

――太陽神のパワー?

 太陽神YOK(よこお)さんというTwitterユーザーさんが、27日に「歴メシ!」について詳しく紹介しつつ、「特にFateGOとかやってる方なんかは割と気になるラインアップが揃ってると思います」とツイートしてくれたんです。それが一気に7000回リツイートされて、ネット書店の在庫が急に動きました。柏書房はAmazon.comなどのネット書店にはあまり卸していないのもあり、品切れになってしまうところも……。「これは重版しないと品切れになってしまうかもしれない」と、入って1年目の担当営業と顔を見合わせました。

――話題になっているのに品切れになると、大きな機会損失になってしまいます。

 そうなんです。でも、うちの会社は「FGO」を僕と担当営業以外誰も知りませんでしたし、2人ともまだ会社の中では下っ端なので、すぐさま「重版しましょう!」とは言いづらく……週末に紀伊國屋などの大型書店で大きな数字が出て、重版の材料ができました。「FGOっていうすごく人気のゲームがあって、世界中の偉人が登場するんですよ。そのゲームのファンの人も買ってくれているんです」と営業が説得したのもあり、重版が決定。朝日新聞と読売新聞にも広告を打つことにもなり、名実ともに会社として期待を寄せる本になりました。

――そもそも、作り手側は「FGO」をどれくらい知っていたんでしょうか? 目次を見ると、ギルガメシュ(「Fate」ではギルガメッシュ)、カエサル、レオナルド・ダ・ヴィンチ、マリー・アントワネットと、8章中4章が「FGO」に登場する偉人を扱った章になっています。意識はしていなかったのでしょうか。

 それが、本当に意識せず重なっていたんですよ。著者の遠藤さんは全く知らず、僕と営業は「知ってはいるけどプレイしたことはない」レベル。カメラマンだけは実際にプレイしていたのですが、仕事の時はほとんどその話はしなかったですね。

古代メソポタミアの食事。ギルガメッシュ王やエルキドゥの食卓はこんな雰囲気だったかもしれない

ネットでの盛り上がりを、いかに実売につなげるか

――想定していなかった支持で、売り方や見せ方の変化はありますか?

 当初「歴メシ!」は、料理本や歴史本のコーナーに置かれることを想定していましたが、マンガ・ゲーム・アニメのコーナーに置いてくれる書店が増えました。アニメイトやとらのあなといったアニメ・マンガ系に特化した書店が弊社の本を取り扱ってくれたのも、これまでにほとんど前例がないことです。現在は営業から書店に「アニメ・ゲーム関連のコーナーに置くのもオススメです」と伝えたり、「FGO」のプレイヤー向けに販促POPを作ったりもしています。

「FGO」プレイヤーに向けたPOPの作成・配布を行った

 今はどの出版社も、「どうすればネットでの話題を実書店での売れ行きにつなげることができるのか?」と頭を悩ませています。ネットでの盛り上がりだけで終わってしまうこともある。ただ、“売れている”ということ自体が一番の広告になりますから、それを足掛かりにしてたくさんの方に届けていきたいです。

――「歴メシ!」のように、ゲーム・アニメファンの影響で売り上げを伸ばした本は他にもあるのでしょうか。

 他社になりますが、例えば筑摩書房「ギルガメシュ叙事詩」は、「FGO」でギルガメッシュが登場したり、ギルガメッシュがメインになるストーリーが配信されたりすると、大きく売り上げが伸びているようですね。

 また、河出書房新社「家庭で作れるロシア料理」も面白い例です。2006年に発売されたレシピ本ですが、発売から11年後の17年8月に重版が決定しています。

 河出書房の公式Twitterを見ると、16年冬に放送したアニメ「ユーリ!!! on ICE」の影響があるとのこと。「ユーリ」はフィギュアスケートの選手たちを描いた作品で、ロシアのトップフィギュアスケーター、ヴィクトル・ニキフォロフがメインキャラクターとして登場します。担当者も「ユーリ」に詳しく、きちんと作品ファンやキャラクターファンにアピールしていた。その効果で、じわじわと売り伸ばすことができ、ついに重版が決まったようです。

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