驚愕の連続 マツダよそれは本当か!池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2017年08月14日 06時10分 公開
[池田直渡ITmedia]

 問題はその温度上昇の度合いだ。おもしろい実験を見たことがある。試験管に綿くずを入れて、手押しポンプで空気を圧縮すると、たったワンストロークでこの綿くずが一気に燃える。もちろん燃料や火薬が入っているわけではない。ただの空気と綿くずである。圧縮による温度上昇はそのくらい高温になるのだ。

 燃焼室に混合気を入れておいて、この実験と同様に圧縮すれば燃料は自己着火して燃える。そのときの燃え方は、プラグで端から着火するのとは全然違う。高温に耐えきれず、混合気が一斉に燃えるのだ。つまりプラグ着火と圧縮着火では燃え方のメカニズムそのものが違うのだ。これが何に影響するかと言えば、排気ガス中の有毒成分だ。問題になる物質は主に4つ。一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)、そして煤(PM)だ。

 圧縮着火は、プラグ着火のように延焼を待たなくても良いので、燃焼時間が圧倒的に短い。空燃比を薄くしても全部が一斉に燃え、途中でくすぶることも無いので、空燃比の自由度が極めて高い。少ない燃料でも完全燃焼が可能なので、くすぶりに起因するPMは発生しないし、空燃比が薄いということは酸素が過多なので、本質的に酸素不足に起因するCOやHCは発生しない。

 燃焼に詳しい人なら「薄いとNOxが出るのではないか?」と考えるかもしれない。なぜそう考えるかと言えば、NOxの発生メカニズムは、本来安定している窒素(N2)が燃焼の熱によって、酸素(02)と化合してNOxになる形だからだ。窒素より不安定な水素や炭素が酸素の近くにあれば、酸素は窒素より優先的に水素や炭素と化合するのでNOxは発生しないのだ。逆に言えば、酸素が過多だと、水素や炭素にあぶれた酸素が窒素と化合するのでNOxが発生してしまう。そのバランスを取るためにこれまでは空燃比が極めて重要だったのである。

 ところが、圧縮着火は燃焼速度が従来比で異常に速く、窒素が酸素との化合に必要なほど熱エネルギーを受けず、酸素と化合できない。

 一度整理しよう。空燃比を薄くすれば燃費が上がる、燃料使用量が減ればそれにひも付いてCO2排出量が減る。しかし従来のプラグ着火ではそれをやりたくても、PMやNOxが発生してしまい。エンジン不調を招いたり、排ガス規制に引っかかったりした。そういうトラップを全部避けて希薄燃焼を可能にするのが圧縮着火なのである。

 これだけの多大なメリットがあったから、次世代夢のエンジンとして、世界中のメーカーが目の色を変えて研究したが、なかなか物にならなかった。技術的に難しい点がいくつかあったからだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.