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» 2017年08月28日 07時00分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:トヨタはEV開発に出遅れたのか? (3/4)

[池田直渡,ITmedia]

EVの技術とは一体何なのか?

 ちなみに、EVの性能を一義的に決めるのはバッテリーの性能だ。一般的に空っぽと満タンはバッテリーの劣化を招く。だから上下の20%は使用しない。企業秘密なので詳細は教えてもらえないが、可能な限り多くのエネルギーを引き出しつつ、バッテリーの性能の劣化を防ぐためには膨大な制御があるはずだ。

 端的に言えば、バッテリー容量は多ければ多いほど良い。フル加速のように大電力を一気に引き出す場合、容量の小さいバッテリーからエネルギーを絞り出せばすぐに電池残量が減る。同じ加速を大容量バッテリーで行えば、電池容量はあまり減らない。それはキャパシティが大きいから残量が多いという意味ではなく、キャパシティに対する負荷の比率で消耗度が変化する特性があるからだ。つまりバッテリーのマネジメントだけに絞って考えれば、バッテリー容量は大きいほど楽になる。

 しかし、一方でバッテリー容量はクルマの重量増加とスペース効率悪化に直結する。だからトヨタは専用バッテリーを作ってまで小型化する道を選び、テスラは汎用バッテリーを大量に積むことを優先して、ボディサイズと重量はあまり気にしていない。それは目指す製品の違いである。

テスラ・モデルSと、パナソニック製のリチウムイオンバッテリー18650。直径18ミリメートル、長さ650ミリメートルと言うことを意味する型番なので、同サイズなら同じ名前になる テスラ・モデルSと、パナソニック製のリチウムイオンバッテリー18650。直径18ミリメートル、長さ650ミリメートルと言うことを意味する型番なので、同サイズなら同じ名前になる

 もう1点、モーター動力のトルク特性は、静止時からの加速で最も力を出す。1トンを軽く超えるクルマを動かすモーターに、静止からのスタートでドンと電力を供給すれば、その瞬間にタイヤがグリップを失うほどのパワーがかかる。だから電力供給はタイヤのグリップと相談しながら行う必要がある。

 日産のノートePOWERはこの制御の最先端にあり、必要か不必要かはさておき、日産は1万分の1秒単位でコントロールできると豪語する。実際に加速制御そのものがクルマの楽しさの1つになっている。このあたりの技術はストロングハイブリッドでも燃料電池車でも同じだ。つまりトルク制御の技術はEVには欠かせない。そしてトヨタも日産もその技術は十分にある。

 さて、記事タイトルの「トヨタはEV開発に出遅れたのか?」という点だが、どうだろうか? クルマ作りのビジョンは違うが、むしろ技術に関する限り、テスラよりトヨタの方ができることは多い。必要があればトヨタは汎用バッテリーを買ってきてシステムを構築することは今すぐに可能なのだ。

 筆者はEV化が馬鹿げているとは言わない。今後ゆっくりとEV化は進んでいくだろう。しかし、現状のEVはインフラが未整備な地域では使い物にならない。当面は都市部の環境意識の高い人たちのものである構造は変わらない。そういう意味では、欧州から続々届くニュースが、まるで今すぐEVだけの世界がやってくるような誤解、もっと言えば間違った未来像を生んでいるのは確かだと思う。

 何よりもあと20年で内燃機関を廃止まで持ち込もうとするならば、国家レベルでインフラ電力の整備を進めないとどうにもならない。日本のように発電が化石燃料に偏った状態では、結局のところクルマが排出する二酸化炭素(CO2)を発電所のCO2排出に転移させるだけだ。それが嫌なら、国家を上げて原発を量産するしかないが、善し悪しは別として政治的にそんなことができる可能性は無いに等しい。

 フランスは75%が原子力なので、現状ではEV化は正しくエコだが、ニコラ・ユロ環境相は2025年までに原発依存度を現在の75%から50%に下げると発言している。再生エネルギーの進歩によってそれでも電力の確保は可能だということらしいが、本当にそんなにうまくいくのかは現状では何とも言えない。もしうまくいかなければEV化はまったく環境に貢献しない無駄技術になりかねない。EV化が地球温暖化防止に貢献するかどうかについて、キーとなるのはあくまでもインフラ発電技術の改良なのだ。

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