小田急は現在、有料座席指定の特急ロマンスカーの他に、5つの列車種別を用意している。速達性の高い順に「快速急行」「急行」「多摩急行」「準急」そして「各駅停車」だ。18年のダイヤ改正で、新たに「通勤急行」「通勤準急」が加わり、「多摩急行」が廃止となる。
「通勤急行」は多摩線直通列車だけに設定されている。多摩線の主要駅に停まる。従来の「急行」「多摩急行」と同じだ。ただし、新百合ヶ丘〜新宿間は急行より停車駅が少ない。急行停車駅の登戸と経堂は通過する。意図は明確だ。多摩線主要駅と新宿駅の所要時間を短くし、乗り換えを解消したい。
通勤急行と交代する形で「多摩急行」が廃止となった。「多摩急行」は多摩線内の主要駅に停車、新百合ヶ丘〜代々木上原間は急行と同じ停車駅。ただし、新宿へは行かず、代々木上原から東京メトロ千代田線に直通する。
つまり、多摩線では何が起きたかというと、速達列車の到着地が千代田線から新宿駅に切り替わった。これは、多摩ニュータウン〜新宿間のライバル、京王電鉄への挑戦状だ。多摩線は新百合ヶ丘から分岐し、多摩ニュータウンの小田急永山、小田急多摩センターを経由する。2つの駅に小田急を冠した理由は、隣接して京王永山、京王多摩センターがあるからだ。つまり、京王電鉄と小田急は「多摩センター〜新宿」間でライバル関係にある。
多摩センター〜新宿間の勝負は京王電鉄の圧勝だった。所要時間は特急で約30分。運賃は340円(現金)。これに対して小田急は途中駅で新宿行きの急行に乗り換えても50分以上。運賃は370円(同)。20分以上も遅く、30円高い。しかも、京王電鉄は18年3月に20円の値下げを実施する。新路線の建設費用を捻出するため20円を加算していたが、費用のめどがついたため加算運賃を廃止する。多摩センター〜新宿間は320円になり、小田急より50円も安くなる。
現在の小田急のダイヤは、京王電鉄との勝負を諦めたように見える。京王電鉄はほとんどの列車が新宿など本線に直通する。しかし小田急は半分以上の列車が多摩線内の折り返し。新宿直通の列車は各駅停車ばかりで速達性に欠ける。優位な要素は東京メトロ千代田線と直通できることで、その優位性を示すために、千代田線直通の「多摩急行」「急行」を設定している。
千代田線直通の「多摩急行」を廃止し、新宿へ速達できる列車を増やした。京王線と真っ向勝負する姿勢をとった。小田急電鉄の強みは複々線化によるスピードアップだ。通勤急行で直通する形となるため、所要時間は最短で40分となる。まだまだ京王電鉄の特急には勝てない。しかし、京王線にも弱みがある。
京王はダイヤ上では小田急より早く着く。しかし、実際には新宿駅に近づくほど列車が渋滞している。京王電鉄の本線は複線のままだから、遅延が発生すれば所要時間は延びる。これに対し小田急は複々線だ。スピードアップし、所要時間短縮と定時性を確保すれば、京王電鉄と勝負できるともくろんだ。
もう1つの課題の運賃については、「定期券利用者の通勤定期は会社支給となるから利用者は運賃を気にせず便利な方を選ぶだろう」と小田急は語る。これは考えが浅い。小田急では社員の申告経路で定期代を出してくれるかもしれないけれど、多くの企業では「合理的な経路選択」を内規としている。あらかじめ総務部が料金をチェックしているため、運賃の安いルートの定期代しか支給されない。それを踏まえて「差額を払ってでも小田急に乗りたい」と、利用者に思わせる仕掛けが必要だ。
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