――今、日本ワインの課題は何でしょうか?
コストでしょうね。日本のワインはとにかくコストがかかります。以前、会社から派遣されてフランスのボルドーに4年間駐在していました。ボルドーはワイン造りにコストをかけない仕組みができています。
日本はワイン産業が盛り上がってきているとはいえ、まだワイナリーは300程度です。一方、フランスだとボルドーだけで数千あります。そうするとワイナリーで使う機械メーカーがたくさんあって価格も安いのです。
日本にはメーカーがほぼないため、醸造用の機械やプレス機は輸入に頼ることになります。輸入コストはかかるし、壊れたときのメンテナンスも大変です。そのほか、瓶詰めに関しても、フランスではトレーラーに瓶詰めの機械が搭載されていて、それが各ワイナリーを回ります。トレーラーが貯蔵タンクからワインを瓶詰めして、コルクだけ打ったものをワイナリーの倉庫に置いて帰るというスタイルが定着しているので、ボルドーでは瓶詰め機を持ってるワイナリーはほとんどありません。これはコスト的にかなり有利です。瓶詰め機だけで数千万円するわけですから。
シャトー・メルシャンは比較的生産量が大きいからいいですが、日本ではどんな小さなワイナリーでも瓶詰め機を持たないといけません。もしフランス式のやり方ができるのであれば、コストメリットは計り知れません。
あと、日本では当たり前のように各社にワインを分析する機械があり、分析担当者がいるのですが、海外のワイナリーには基本的に分析担当者はいません。ボルドーワインの産地であるメドックの中心はポイヤックという町で、そこに分析専門の会社が2社ほどあって、彼らの元に数百というワイナリーがサンプルデータを送って分析してもらうのです。これもコスト削減に役立っています。
日本でもお互いにコストを下げるような取り組みが必要です。例えば、他のワイナリーで機械が壊れたら自社のものを貸してあげる仕組みがあれば、予備を持つ必要がありません。同じ機械を買って、お互いどちらかがスペアを持つというやり方です。
日本はワイン産業がまだ小さいということもありますが、造るだけでコストがとてもかかるのです。日本とEU(ヨーロッパ連合)のEPA(経済連携協定)が始まって関税がゼロになると、海外ワインはさらに安く日本に入ってきます。日本ワインにとっては、より競争力を失うことになります。品質が優先なのはもちろんですが、コスト度外視でワインを造るのは限界があります。
――コストを協力して下げていこうという動きはあるのですか?
具体的にはまだないです。会社間の話になるので今はアイデアレベルです。私は本来かけるべきコストというのは、ワイナリー独自の品質のこだわりにかけるべきであって、瓶詰めなどは協同してコストが下がるのであれば、そのほうが良いのではと考えています。
大手ビールメーカーでも共同配送など今まででは考えられなかった取り組みをしています。ワイン業界はさらに規模が小さいので、そういうことを積極的にやっていかないといけないのかなと痛感しています。
――ほかに課題はありますか?
ブドウです。先ほど醸造用のブドウのクローンの話をしましたが、どれが日本の気候に合っているのかについて公的な機関で試験をしてほしいです。個々のワイナリーでやっていると効率が悪いし、知見が蓄積されません。同じ条件でさまざまなワイナリーがブドウを評価して、その結果を集めて判断する。そんなことができればいいのかなと思います。
後は苗木不足でしょう。醸造用のブドウを植える人がこの2〜3年で急激に増えたので、とても不足しています。新しく畑を広げたところに早く植えたいけれども、苗木がなかなか入ってこないので、何年もかかって植えているのが現状です。
苗木不足の背景には、各地に「ワイン特区」ができたことでワイン造りに参入しやすくなったことがあります。彼らは自分たちで畑を持ってブドウを植えるので、1本の木から収穫されるブドウの数が少ない垣根栽培が主流です。これは棚栽培の10倍くらいの苗木が必要なのです。
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