一番心配なのに、一番どうにもならないのが、お金である。そこを押して、なんとかならないものかな。おあつらえむきに、奥村彰太郎氏(ファイナンシャルプランナー)の『定年後のお金の不安を解決する本』(知的生き方文庫、2014)という本がある。そうか「お金の不安を解決」してくれるのか、そんな不安ならしこたまあるよ、と思って読んでみたが、ふふ、やはりそんなうまい話、あるはずがないのである。
ただ、年金の得なもらい方とか、保険の選び方とか、ローンの繰り上げ返済とか、葬儀費用の節約の仕方とか、どんな本にでも書いているようなことが書かれているだけである。当然ながら現在の貯蓄が倍になる方法とか、そういうことはない。
「年金でどう生活していくかを考えることが、お金の不安を解消する第一歩」ということで、「年金をもらいながら働く」方法とか、年金で足りない部分は働くかなにかして補わなければならない、などと書かれているが、みんなすでに、誰からいわれなくてもやっていることばかりである。
最後に、奥村氏はけっこう図々しいことをいっている。「みなさんのお金の不安は解決したでしょうか? 人によって、お金の状況はまちまちですから、さまざまなご意見があることでしょう」。そんなに意見がないから、あなたの本を読んでみたのだが、「預貯金が足りないのであれば、確定拠出年金やNISAなど非課税の金融商品の利用を考えみる」「何か不安のもとをつかめば、対応策はいくらでもあるのです」と、素っ気ない態度。そしてついには、こんなおざなりのお言葉だ。「定年までの残り時間を、どう使うか――その時間を上手に使うことこそが、お金の不安を解決する近道です」
弱ったね。元々、「お金の不安を解決する」という惹句にひっかかった私が浅はかだったのである。まあ本当のことをいえば、そんなに「不安」があったわけではない。
「定年後いくら必要か」のテーマを書く上で、「不安」のフリをしていただけで、実際は、ないお金はない、と開き直っているのが実情である。いったん不安に襲われたら、それを取り除くことはけっこう難しい。
最初から無駄な不安にとりつかれないこと、それが一番である。これは決しておざなりではない。
気を取り直して、次にいってみよう。定年後の生活には一体どれくらいの資金が必要なのか。そのへんのことを書いた本を開いてみる。いっとくけど、ないものはないからね、とあらかじめ次の著者に断っておいて読み始める。
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