顧客優先か労務管理優先か? ハイラックス復活の背景池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2017年11月20日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

切り捨てるか、救済するか?

 こうした世界戦略レベルの流れの中で、特殊な日本のニーズが切り捨てられるのはビジネスとしてはやむを得ない流れだった。とはいえ、働くクルマとしての国内でのハイラックスの需要が消えてなくなるわけではない。わが国では特に北海道を中心に現保有台数で9000台の旧型車が今なお現役で活躍しており、それらの保守を引き受ける北海道のディーラーから、トヨタ本社への懇願が続いていたのである。「ハイラックスをご愛顧いただいているお客さまに対して、乗り換えを勧めるクルマがない。われわれは一体お客さまの買い替え需要にどう応えていくのか?」。

 要望が正式にトヨタに突きつけられたのは07年のことだ。北海道のディーラーからの切望に「検討します」と約束をしてきたのは当時副社長であった豊田章男現社長である。

働くクルマと言うより、もはや乗用車に近い内装。トラックでありながらダブルキャブで、運転席の背後にちゃんとシートがある 働くクルマと言うより、もはや乗用車に近い内装。トラックでありながらダブルキャブで、運転席の背後にちゃんとシートがある

 何とかしろと言われた車両企画担当は、多分困り果てたことだろう。マーケットが望んでいるのは、先々代の国内向け小型サイズのハイラックスだ。だが、それを「はい、そうですか」と再生産できるくらいなら最初から生産中止にしていない。そうはいかないから生産打ち切りにして生産拠点を国外に移したのだ。実際、三菱自動車はタイで生産したグローバルサイズのピックアップトラック、トライトンを日本で売ったことがあるが、6年かけて販売した総台数が1800台という惨憺(さんたん)たる敗北に終わっているのだ。

 そういう難題を抱えていたが故に、プロジェクトは難航した。実は今回の復活劇は3度目の正直で、1度目はリーマンショックで、2度目は北米の訴訟騒ぎで頓挫した。元々が利益を期待できないプロジェクトなので、少しでも強い逆風が吹くと儚く折れる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.