改革に着手した。自分の給料は3分の1にし、メニューや販促の方法を懸命に考え、社員にはっきりと伝えた。従業員の給与も10〜15%カットすると決めた。全従業員を前にこの方針を伝えると、ある店長が「全員辞めちゃいますよ?」と言った。多分この店長は、一瀬氏が「辞める」という言葉におびえきっていたことを見通していたのだろう。ただし、一瀬氏の腹は据わっていた。「いずれにせよ、このままなら店は全部閉めることになる。辞めたい人間は、今、ここから出ていってくれていい」と言った。誰一人、出ていきはしなかった。
その上で、目についたことは何でも言った。一緒に大きな夢をかなえようじゃないか、という意味合いで、それじゃダメだと口に出した。すると、多店舗化の壁はうそのように破れた。翌月から一気に業績が上向いたのだ。一瀬氏は、こんな言葉で振り返る。
「僕、実はギャンブルさせると弱いんです。これじゃ一流の経営者にはなれないんじゃないか、と思ったこともありました。でも、それは違う。ギャンブルは勝ち負けがあるけど、商売は、相手に勝たせるほど、自分も勝つことができる。それは店員もお客さんも同じです」
ステーキとの出会いも、多店舗化の壁も、当初は失敗として彼の目の前に現れた。そう、「成功」は決して優しい顔をしては現れないのだ。
そして、こんな経験がついに一瀬氏を一流経営者へと押し上げる日が来た。
「あれは、店が流行っても、腕のいい料理人を集められず会社の業績が伸び悩んでいた時期でした」
彼はある日、たまたま雑誌「近代食堂」の広告キャッチコピーに目を奪われた。「1人で20〜30人前の料理ができる魔法の鉄板」と書いてあり、すぐこれを取り寄せた。すると、妻が大仕事をした。
ある日の夕食、鉄板に薄切り肉とご飯をのせて夕食に出してきたのだ。これにペッパーとしゅうゆをかけ、混ぜながら焼くと、焦げが何とも言えず香ばしく旨い。この瞬間、彼の中で何かが弾けた。この料理、鉄板を一定の温度に熱するシステムさえあれば、コックによる火加減が必要ない。なら安く出せる! そう、これが「ペッパーランチ」誕生の瞬間だったのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング