中国製EVに日本市場は席巻されるのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)

» 2018年01月09日 06時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 「日本車がもたもたしているうちに、中国製の電気自動車(EV)にやられたりする心配はないの?」

 最近2度ほどそんな質問を受けた。むしろ聞かれてびっくりしたのだが、本気で心配している人は本当にいるらしい。

 結論から言えば、当分の間大丈夫。少なくとも乗用車はそんなことになるにはいくつもの段階を踏まなくてはならない。ただし商用車については多少の危惧もないわけではない。ひとまず商用車の話から始めよう。

中国民族資本による自動車メーカーBYDのEV「E6」 中国民族資本による自動車メーカーBYDのEV「E6」

商用車の日本輸出は拡大するのか?

 中国におけるEVの最大手と言えば比亜迪股份有限公司(BYD)だ。

 EVのみならず電池や電子部品の生産も手掛けており、リチウムイオン電池の製造で世界第3位と言われている(なにぶん中国の発表値なので)。このBYDが手掛けるK9という電気バスが京都や沖縄などで導入され、既に運用も始まっている。

 EVなので運行中は排気ガスを出さない。環境悪化が著しく、ディーゼルエンジンの運用を全面禁止したい大都市では、現状電気バスか燃料電池バスしか出口がない。しかし旧来のバスの1台2000万円程度に対し、トヨタの燃料電池バスは1台1億円。安さが売りのBYDの電気バスでさえ6500万円だ。

 どちらも国交相の「低公害車普及促進対策費補助金」制度で車両価格の3分の1。充電機器の3分の1(電気の場合)とその工事費全額が補助される制度の対象だ。燃料電池バスのについては、国から5000万円、自治体から3000万円(自治体によって異なる)の補助金交付具体例が国交省から発表されているが、それだけの巨額の補助金が申請だけで簡単に出るわけもなく、都度事業計画を提出して審査を経る必要がある。

 さらにどちらもインフラがないと運用できないが、今すぐのインフラ整備を考えるならコストだけが問題の電気より、水素の供給はハードルが高い。

 BYD米国法人のサイトによれば、31人乗りのバスで満充電時の航続距離は250キロ、充電時間5時間となっている。言うまでもなくこれはカタログ値だ。バッテリーを使い切った場合、満充電まで30時間かかったテスト結果もある。この辺りは航続距離の設定と充電設備の性能、両方にかかわってくるが、商用EVの実例として充電時間が長く運行は1日おき、もしくは夜間の充電で回復できる範囲にとどめた運行計画を立てざるを得なかったケースも実際に複数あった。

既に日本の一部で運用開始されているBYDの電気バス 既に日本の一部で運用開始されているBYDの電気バス

 ちなみに床下スペースに余裕がある大型商用車の場合、内燃機関なら運用距離の必要性に応じてタンクの容量を変える。観光バスや高速バスなら、航続2000キロ仕様に仕立てることも可能だ。ただし、必要以上の燃料を積めば、その重量で加減速のたびに余分に燃料を消費するので、運用に合わせた容量に調整するのが一般的。電気バスの場合、そもそも航続距離的に遠距離運用が不可能なので調整の自由度が低い。

 仮に1日おき運行だとすれば2台を交互運行することになり、車両価格が半額でないと採算が合わない上、実際には車庫費用や保守コストなども増える。カタログ通り5時間で充電できたとしても、250キロ走行ごとに5時間動けなくなる。ディーゼルなら5分で業務に復帰できる。バッテリー容量が航続距離を決め、同時に充電時間が伸びる。充電は容量に比例して伸びるわけではなく多少短縮できるが、やはりバッテリーのエネルギー密度の低さは稼働率の自由度に悪影響を与える。つまり電気バスを使うということは、規制でゼロエミッションが必須な場合に限られる。規制がないエリアで運用するのは経済合理性を無視することになる。

 日本の場合、現状では都市部の大気汚染が問題化していないので、経済合理性を無視した選択がどんどん進むとは考えられない。逆に言えば、小池都知事が新年度予算に思いつきで脱ガソリン予算を盛り込んだように、世界的環境規制に無意味に迎合し、必要以上にゼロエミッション規制を採用すれば、EVとしては安価なBYDのバスが国内でシェアを伸ばすことになる。

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