斎藤氏は2010年に日本介護ベンチャー協会を設立。介護業界の負のイメージを変えていくために、「介護版ビットバレー」をつくろうと考えた。
「2000年代にITベンチャーブームが起きたように、介護ベンチャーブームを起こしたいと考えました。当時の僕らがITベンチャーに憧れたように、今度はいまの若者が介護やヘルスケアの分野で起業したい、働きたいと思えるような空気を作っていきたい。そうすれば、人手不足の解消にも寄与できます」
起業家志向の人向けに介護業界の若手経営者を集めて創業秘話や成功物語を語ってもらうイベントを開催したり、影響力のある著名人に介護ビジネスについて講演してもらった。異業種を含めた経営者交流会、情報交換会も定期的に実施。異業種であっても、介護周辺領域でどんなビジネスができるのか、積極的に提案した。
介護版ビットバレー構想に共感してくれる経営者は徐々に増えていき、同協会の会員企業は現在100社を超えている。
斎藤氏は「『介護起業』は若者の仕事の価値観に合っている」と話す。
「ITベンチャーブームの時のように、大金を稼ぎたいという若者は減りました。しかし、社会のために何かしたいという“社会起業”への関心は高まっています。ソーシャルベンチャーという切り口で介護領域での起業家を増やしていきたいですね」
この他に、イメージ改善の施策として取り組んできたのが、異業種とのコラボレーション企画だ。
例えばプロレスとのコラボ。プロレス団体と業務提携し、共同で興行を実施した。介護職員がセコンドに付いたり、元格闘家の職員がリングに上がってプロレスラーと試合を行ったりした。一般のプロレスファンがいる中で、マイクパフォーマンスの時間をもらい介護の仕事の魅力を訴え、一般層と介護業界の接点を構築していった。
こうしたイベントをきっかけに介護の仕事に興味を持つプロレスファンや、引退後に介護職への転身を検討するプロレスラーも増えたという。
「コラボ企画について批判する人も一定数いますが、介護の暗いイメージを変えていくためには、業界の外に出て発信していかなくてなりません。介護業界は職人気質で閉鎖的な人も多いですが、それでは周囲が介護に対して抱いているイメージは変わらないままです。結果、人材も集まりません」
また、ファッション・メイク系の専門学校と提携し、そこの生徒たちや読者モデルを集めて「介護ギャル」というユニットを結成。介護ギャルに施設訪問(職場体験など)をしてもらい、ファッション雑誌とコラボした。
「若い女性が見る媒体に介護ギャルが情報を発信することで、関心を持ってもらうことが狙いです。提携先の学校では、介護を就職先の選択肢として考えてくれる生徒が増加しています。どの業界、業種でもコラボできることは必ずあります。周囲を巻き込んでいくことが大切です」
プロレスもギャル系ファッション雑誌(介護ギャル)も、介護と全く親和性がない。しかし、「3K」というイメージを変えていくためには、そのくらい極端に仕掛けていく必要があるのだ。
「給料を上げ、海外の人材を取り込むだけでは人手不足は解消できません。『3K』というイメージを変えていく活動も同じくらい重要なのです。最近は政府もそのことに気付き、こうした広報活動に予算が付くようになってきています」
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