さて、このように定期人事異動がつくりだしてきた「幻想」をひとつひとつ打ち破っていくと、こんな疑問が生じていくのではないだろうか。
日本特有の定的人事異動に具体的なメリットがほとんどないのに、なぜ我々は意味のないことを何十年も続けてきているのか。いくらなんでも「惰性」だけでは続かない――。労働省の役人として戦後日本人のワーキングスタイルを観察してきた労働経済学者・田中博秀氏は、その要因として「新卒採用」と「終身雇用」が大きいという。
海外では「Job」を中心とした人事・雇用慣行が一般的なのに対し、日本では終身雇用と新卒の定期一括採用という「人」を中心とした独自の慣行となった。その副作用だというのだ。
「人」を中心にするなんて、さすが我が日本、実に素晴らしいことじゃないかと思うかもしれないが、そのように「人」を中心としたことが皮肉にも、「人」をコマのように扱うシステムをつくってしまったという側面もある。
毎年4月に新人がわっと大量に入社してくるので、既存社員たちの一部はトコロテンのようにどこかへ押し出されるしかない。そのとき組織が成長していくために、仕事ができる人間はその場に残し、できない人間をスポイルすることになるはずだが、ここでネックになるのが終身雇用だ。社員は家族であって、定年を迎えるまで会社が面倒をみるという大家族主義の中で、差別があっては士気にも関わる。かといって、新しい戦力が次から次へ入ってくる。
この「破たん」を合理的に解決するために生まれたのが、組織内の人間を平等にぐるぐる回していく定期人事異動というシステムではないのかというのだ。
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