上がらぬ賃金に人不足 保育士の働き方改革は可能か?全職種平均より月8万円低い(2/5 ページ)

» 2018年04月06日 11時25分 公開
[坊美生子ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

保育所等の経営と保育士の賃金

 ここで、保育士の賃金がどのように決まるのかについて説明したい。保育所等には、国が定めた保育士の配置基準や面積等の基準をクリアしたとして都道府県などが認可した認可保育所と、それ以外の認可外保育所がある。認可外の中には、東京都の認証保育所のように、自治体が独自の基準に沿って認証した保育所がある。

 認可の場合、受益者負担として、保護者が運営費の一部を保育料として支払うほか、国や都道府県、市町村が残りの運営費を給付する。認可外は基本的に、保護者からの保育料のみで運営されている(※6)。自治体が独自に認証した保育所には、自治体から補助金が支給される(図表2)

図表2 保育士への賃金の流れ。図表3 公定価格の決め方 図表2 保育士への賃金の流れ。図表3 公定価格の決め方

 認可の場合は、国が基本部分と加算部分から成る「公定価格」として運営費を定めている。国はまず、子ども一人あたりの費用となる保育単価を、保育士の人件費などを基にして(※7)年齢区分ごとに定めている(図表3)

 ただし公定価格には、地域や保育所の定員などによって支給割合に傾斜が設けられている。国家公務員の地域手当同様、地域によって生活費などが異なるからである。次に、各保育所等の運営費の基本部分を、保育単価と利用する子どもの人数を掛け合わせて算出する。休日保育や夜間保育、障害児保育等を行った場合には加算がある。

 保育所等には、運営費から保育料を差し引いた残りが委託費として、市町村から支払われる(※8)。このほか、待機児童対策として独自に補助金を上乗せして支給している自治体もある。

 保育所等を運営する事業者はこれらの収入を原資として、それぞれの判断で、保育士への給料や土地の賃借料、給食の食材費、光熱水費などを支払うわけだが、認可の場合は保育士の配置基準や運営費等が国によって決められるため、事業者が独自に、保育士の給料を大幅アップする余地はほとんどない。

福祉業界の労働生産性

 次に、保育所等を含む福祉業界の経営構造の特徴を見るために、労働生産性という観点からみておきたい。12年経済センサスによると、従業員1人あたりの付加価値額を示す労働生産性が最も高いのは、「情報通信業」909万円で、「卸売業」は747万円、「製造業」は607万円である(図表4)。これに比べて「社会福祉・介護事業」は288万円と低く、「飲食サービス業」はそれより低い165万円だった。

図表4 各産業の労働生産性と労働分配率 図表4 各産業の労働生産性と労働分配率

※6 認可保育所を目指す認可外保育施設に対しては、移行支援の補助金などがある

※7 保育士の給料の基準は、国家公務員の給料に準じて国が定めている

※8 認定こども園などの場合は「委託費」ではなく「給付」

 また、給与総額を付加価値額で除した労働分配率は「情報通信業」64.9%、「卸売業」62%、「製造業」70.3%、「社会福祉・介護事業」85.8%である。情報通信業や卸売業、製造業に比べると社会福祉・介護事業の労働生産性は低く、労働分配率は高くなっている。「教育、学習支援業」も同じような傾向を示している。福祉や教育産業は労働集約型であり、人件費割合が高いためと考えられる。

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