同社のような商業宇宙ホテル構想を掲げる企業は、米Axiom Space、米Bigelowなど複数存在する。例えばBigelowは、宇宙ホテルとしても活用可能な商業宇宙ステーションの建設を目指している。鍵となるのは膨張式居住モジュールの開発だ。モジュール自体は柔軟な素材の多重構造で約10分の1に折りたたまれており、宇宙空間で膨張させて居住空間として使う構想だ。
元々はNASAが開発を進めていた技術を応用してBigelowが取組みを進めているが、16年4月から国際宇宙ステーションに実証モジュールがドッキングしており、実用性や耐久性の面におけるテストが行われている。その結果も踏まえて、早ければ21年に膨張式軌道モジュールを打ち上げる計画だ。
また今年2月には、将来的に商業宇宙ステーションを管理、運用するためにBigelow Space Operationsという別会社を設立した。加えて、現在国際宇宙ステーションにある米国のNational Laboratoriesを運営する非営利組織Center for the Advancement of Science in Space(CASIS)との提携も発表、商業宇宙ステーションの利活用を見据えて需要や市場規模の理解を深めることが目的のようだ。
このように米国でさまざまなベンチャー企業が商業宇宙ホテル構想を掲げる背景には何があるのだろうか。
Orion Spanのバンガー氏は「宇宙にアクセスする技術の進化、コストの低下、これまで国際宇宙ステーションで培われてきた先駆的取り組みとそこからの学びを踏まえて、恒久的な商業宇宙ステーションとコミュニティーを形成する時期だ」と語っている。
国際宇宙ステーションは科学技術発展や産業振興、青少年育成、参加国の国際プレゼンスの確立など多岐に渡る成果を上げてきており、24年までの運営は各国で合意されている。他方、2月に発表された米国連邦政府の予算教書では、深宇宙に向けた多数のプログラムが組まれている一方で、地球近傍の宇宙空間における活動は、民間企業の力をより活用して商業化を進めていく。国際宇宙ステーションに対する政府予算直接支出を25年に終結する方針が示されたのである。
しかしながら、合意形成には至っておらず状況は流動的であり、今後米国議会、産業界、各国政府からさまざまな反応が出ることが予想される。ベンチャー企業が掲げる商業宇宙ステーションや宇宙ホテル構想の実現性もまだ不透明な中、今後の動向を注視していきたい。
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、15年のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE共同創業者 兼 代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。著書に「宇宙ビジネス入門 Newspace革命の全貌」(日経BP社)。
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