ところが、リヤシートに乗って驚いた。同じエンジニアが設計したシートとは思えない不出来なシートだった。まず床に対して座面が低い。低いことがイコールNGではないのだが、座面を下げたら、シート前端を持ち上げてやらねばならない。低くて水平だと、ましてやトルソアングルが寝ていると尻が前に滑る。そういう体位設定であるにもかかわらず、座面が平板で尻を固定するくぼみも足りない。さらにシートバックにもサイドサポートがないので、前後方向だけでなく横方向にも頼りない。となると、バランスボールに座っているようなもので、非常に疲れる。ミニバン系に多くある典型的ダメシートだった。
そこで思い出すのは、プレゼンで見たシートアレンジの説明だ。背もたれがワンアクションで前に倒れ、荷室の床と倒したシートの背面が完全にツライチで水平になる。それだと確かに荷物は積みやすいだろうが、詰まるところ荷台のためのシートであって、座るためのシートではない。プロボックスやハイエースみたいなことになっているのだ。ボルボには過去、こんなシートはなかったのではないか。
つまりは平らな荷室を作るために、トランクの床の都合で座面を下げ、かつ水平にし、さらに水平に深く折りたたむために座面と背もたれに必要な凹凸を減らしていることになる。この種の仕掛けを持つ日本車のシートがダメだったのと同じことになっている。あちらを立てればこちらが立たずで、そこは魔法のようなわけにはいかない。高邁な思想があろうがなかろうが、物理の限界は超えられない。
戻ってすぐボルボのスタッフに説明を求め、その意味が判明した。ボルボの思惑としては、リヤシートに乗員を座らせたいのであればXC60を、2人乗車を前提にリヤを巨大なカーゴスペースとして使いたいならXC40を勧めるのだそうだ。ボディサイズが全く同じとは言わないが、互換できないほどには大きさが違わない。要するに、高い安いの序列で40と60を並べるのではなく、違う性格のものとして造り分けたのだとボルボは主張している。
もう1つ、力説していたことを加えておけば、着座感を多少犠牲にして、リソースをユーティリティに振ってはいるが、リヤの安全性に関しては一歩も譲っていないとのことで、そこはボルボの基準を死守しているという。
つまり、リヤシートから見ると、XC40はこれまでのボルボと違う新コンセプトを与えられていることになる。ティッシュが箱ごと収められるとか、ゴミ箱がついてるとか、買い物袋をぶら下げるフックが付いているとか、そういう日本の軽自動車的な装備がいろいろと充実している。
ただし、それらにいちいち理屈が付いているところはボルボらしい。クルマの中のスペースというスペースを徹底的に活用して小物入れを付けようとする軽自動車とちょっと違うのは、時間をかけてユーザーにちゃんとアンケートを取って、クルマに持ち込むものを調べ上げ、それらのあるべき収納場所を理詰めで考えたのだという。そして、全てをパッセンジャー2人の手が届く距離、かつ使い易い位置にレイアウトしたのだそうだ。日本のメーカーだってそういうことはやっていないわけではないと思うが、一歩遡った「なぜ?」を発信しなければ思想的に骨太なものとは受け取られない。長らくロングツアラーとしての機能、つまり走ること、運転することに集中してきたボルボが、都市内でクルマを使うユーザーの日常に初めて目を向け始めたということになるだろう。
さて、結論だ。XC40はとても素性の良いSUVである。基本として走る機能がちゃんとしている。そして細かな配慮が進んでいた日本のクルマに学んで、日々のユーティリティ向上を図っている。それを軟弱だと思う人にはXC60が用意されている。XC40はXC60と補完し合うことで、新しい都市型ボルボになっていると言えるのかもしれない。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング