マツダの意地を賭けたCX-3の改良池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2018年06月18日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

 過去を振り返れば、ヴァンデンプラ・プリンセスやルノー5バカラ、ランチア・イプシロンのように小さな高級車に挑んだクルマは多々あるのだが、やはりコンパクトカーのメカニズムを流用する以上、コストの制約があり、真の意味では小さな高級車にはなれていない。500万円のBセグが成立しない以上、本当に小さな高級車が出てこないのは市場側の既成概念の問題でもあるのだが、今回のCX-3には大いに期待ができる理由がある。それは年明けから導入が噂されている第2世代SKYACTIVシャシーの要素技術の一部が前倒しで入って来るからだ。

 第2世代SKYACTIVシャシーのキモはシャシーの機能分担の徹底的な割り振りの見直しだ。マツダはそれを人体になぞらえる。シートを作り込んで骨盤から上の人体を歩行中の姿勢で維持し、骨盤から下の人体各部の機能をシャシー以下の各部にエミュレートさせる。タイヤのトレッド面は足の裏の皮下脂肪、サイドウォールのたわみは土踏まずのアーチ、ハブ側のマウント各部が足首、サスペンションアームとボディ側マウントが膝。そしてその力を混濁させずに骨盤に伝える大腿骨の役割がねじれを排除したシャシーとたわまないシートフレーム、減衰に優れたシート。人体で言えば筋力ではなく骨格で力を受け止める正しいフォーム。それを達成すべくスーパーコンピュータで徹底的に各部の機能の割り振りと最適値を解析した。

 一般に解析は要素が増え過ぎると、シミュレーションが複雑になり、誤差が増えるので、マツダは意図的にこの第2世代SKYACTIVシャシーを構造的に単純な中間連結型トーションビームでリヤサスペンションを構築する。言わずと知れた安物形式だが、マツダは部品点数が少ない方が解析精度が上がり、良いものになるという理論でこの第2世代シャシーを開発中だ。「低コストだけれどむしろ機能としてベター」という状況をマツダは今作り上げつつある。小さな高級車ができる新たなブレークスルーの可能性がそこにある。

 さて、マツダはタイヤメーカー4社に対して、足の裏と土踏まずのアーチの柔軟性を持つタイヤの開発を依頼した。最終的に採用されたのはトーヨータイヤだった。荷重が掛かるとちゃんとつぶれて足の機能をトレースできるタイヤができた。

 ここで主査の逆襲がはじまる。CX-3はシャシーをデミオと共用する。主要コンポーネンツも共通だ。しかしSUVはタイヤとホイール径が大きい。デミオより重くなるのは避けられない。この慣性重量をしっかり受け止め、ばね下がぶるぶると動く余分な動きを止めるためにはデミオと同じ径のショックアブソーバーを使っていては難しい。だから変えさせてくれと上層部に掛け合った。

 もともと第2世代SKYACTIVシャシーではショックアブソーバーの径を上げる予定だったことも加味して、上層部はそれを前倒しで採用することを主査に許可する。これには工場の生産設備を変える必要があり、それはコスト的に大変なことだが、大英断によってめでたく大径のショックアブソーバーが採用できた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.