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» 2018年08月01日 07時00分 公開

「他人の時間を奪う罪」に気付かないうちは、働き方改革はうまくいかない――日本マイクロソフトに聞く“改革のリアル”日本企業は「礼儀正しく時間を奪う」(2/2 ページ)

[吉村哲樹,ITmedia]
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過去の実績データを自動的に可視化することで無駄な働き方をなくす

 米国のとある製造企業で、会議に費やされている時間を調査したところ、経営者に対して報告を上げるために役員は「11会議体、2万時間」を費やし、役員に報告を上げるために部長クラスが「21会議体、6万3000時間」を費やし、さらに部長に報告するために現場が「130会議体、21万時間」を費やしているという結果が出たという。総会議時間が30万時間、人件費にして34億円を費やしている計算になるが、米国よりはるかに生産性に劣る日本では、さらに多くの時間と手間を費やしている可能性が高い。

 しかも、こうした会議の大半は「××報告会」という名の下、実績情報を報告してすり合わせるためだけに使われている。こうした「過去の事実の報告とすり合わせ」にかかる時間をいかに圧縮できるかが、働き方改革の重要なポイントの一つであると澤氏は指摘する。

 「過去に発生した事実は、わざわざ会議の場で時間を使って報告する必要はありません。会議の前に、参加者間であらかじめ情報を共有しておけば済む話です。そのための情報共有を自動的に行える仕組みを構築することが重要です。加えて、会議の場では過去の事実についてのサプライズは厳禁です」(澤氏)

 ここで澤氏は、同氏のチーム内で日常的に行われているコミュニケーションの一例をデモンストレーションしてみせた。「Skype」で遠隔地の部下とビデオ会議を行いながら、「Excel」シートを互いの画面上で共有し、その場で編集する。こうしたコミュニケーションを日頃から行うことで、直接顔を合わせるために移動する時間を節約できるとともに、作業進捗(しんちょく)も共有できるため、進捗管理の正確性も担保できるようになるという。

photo 日本マイクロソフトでは、Skypeで遠隔地にいる部下と会話しながら、Excelシートを共有し、その場で編集するといった作業を日常的に行っている

 同氏は、海外にいる直属の上司ともこうしたコミュニケーションを日常的に行っているという。

 「もちろん、直接顔を合わせた方が人間味のあるコミュニケーションができるに決まっています。逆に言えば、直接顔を合わせたときは、人間味のあるコミュニケーションだけに集中するようにしています。一緒に飲みに行って、個人的な関係を深めることに努めます。こうして互いに信頼感を醸成しておけば、その後の仕事のドライなコミュニケーションに余計な感情が混じらず、スムーズに事が運べるようになるのです」(澤氏)

 こういう関係を築き上げておくと、何か困ったことがあったときに上司は「How can I help you?」と手を差し伸べてくれるという。ここでは、決して「Why?」と問わないことがポイントだという。「なぜうまくいかないんだ?」という問いには、どうしても責任追及のニュアンスが含まれてしまう。そのため「なぜ?」ではなく、「何が足りない?」「何が必要?」「私は何を手助けすればいい?」という、「何(事実)」に基づくコミュニケーションに努めることが大事だという。

 当然、こうしたコミュニケーションを実現するためには、事実が常に可視化されている必要がある。通常は、そのために報告書が作られることになるが、澤氏は部下に日報や週報、月報といった類いの報告書を作らせることは一切ないという。

 「『Power BI』というツールで、全ての数値が自動的にグラフィカルなレポートにまとめられる仕組みを導入しています。こうしておけば、レポート作成にかかる手間と時間を節約できるだけでなく、いつでも事実に基づいて部下とコミュニケーションを取れるようになります」(澤氏)

自宅でサボるような社員は既に社内で隠れてサボっている

 日本マイクロソフトでは、以下の3つの“No”が掲げられているという。

  • No Exception(例外なし)
  • No Privacy(プライバシーなし)
  • No Negotiable(交渉の余地なし)

 1つ目の「例外なし」は、例外規定を設けることによるコストとリスクの増加を極力避けるという意味。例えば、1万社の標準契約と1社の例外契約、それぞれにかかるコストとリスクをてんびんにかけた場合、通常は前者の方が重いと考えがちだが、日本マイクロソフトでは両者を等価と考え、例外を設けることによるコスト増、リスク増を極力排除するという。

 「例外を一度認めてしまうと、次もまた認めざるを得なくなり、次々と例外が増えてコストとリスクが膨れ上がっていきます。従って、他社との差別化要因にならない部分については、徹底的に融通を利かせなくした方がいいのです」(澤氏)

 2つ目の「プライバシーなし」は、一見しただけではぎょっとするようなキーワードだが、あくまでも従業員が業務に就いている間だけに限った話で、しかも従業員の「監視」が目的ではなく「見守る」ための施策だという。

 「企業の中で何かするのであれば、それは全部きちんと見守られた状態の中で行われなければならないということです」(澤氏)

 そして3つ目の「交渉の余地なし」は、「セキュリティ違反」「コンプライアンス違反」「全てのハラスメント」について、一切の交渉や例外を認めず、必ず一発アウトにするということ。「ここで例外を認めてしまうと、経営の健全性は必ずや阻害されてしまう」と澤氏は力説する。

 ちなみに、在宅勤務をはじめとする新しい働き方の導入を検討する企業から、「社員に自由を与えたら、サボるようになるのでは?」という質問が寄せられるという。それに対して澤氏は、「安心してください。自宅でサボるような社員は、会社にいても常に隠れてサボっています」と答えているという。

 「確かに会社のルールをこっそり破る人も一定数出てきますが、そういう子供じみた社員が出てくるのは、日本の会社が社員を子供扱いしているからです。勝手にPCやデータを持ち出してしまう人も、悪意があってやっているわけではなく、会社に貢献して褒められたいと思ってやっています。しかし、怒られるのは嫌なので、もしセキュリティ上の問題が起こっても隠し通そうとし、結果的に被害が拡大してしまいます。『怒られたくない』という行動原理は、まさに子供のものだといえます」(澤氏)

 しかし、会社が社員を評価する軸が明確化されていれば、きちんと結果を出しさえすれば褒めてもらえるのだから、「怒られないかな……」と不安に駆られることなく、安心して働ける環境が実現するという。同様に、「あいつは毎日遅くまで残っているから頑張っている」と、時間“だけ”を評価の軸にすることも避けるべきだと澤氏は説く。

 「これまで自社内では常識とされてきたことが、実は外から見ると非常識であることも往々にしてあります。そうした“気付き”を得るには、社外に向けてアンテナを張り、『外の物差し』で自社のやり方を測れるようにしておく必要があります。例えば、こうしたイベントで社外の人の話を聞くことは、アンテナの感度を上げるための有効な手段の一つといえるでしょう」(澤氏)

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