ほうじ茶ブーム生んだマーケッター 秘訣は「お茶との恋愛」!?三顧の礼で生産者を説得(3/3 ページ)

» 2018年08月15日 07時00分 公開
[服部良祐ITmedia]
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鶴谷さんの「お茶愛」、茶葉メーカー動かす

 「(茶葉の納入は)考えさせてください」という言い方で会話を締めた油谷さん。鶴谷さんは「正直、これは難しいというニュアンスでは」と思いながら東京に帰った。だがその後、油谷さんからいろいろな種類の茶葉を配合させた大量のサンプルがポッカの研究所に送り付けられてきた。

 「恐らく自分のお茶の技術を試したくなったのかも」(鶴谷さん)。渡りに船と、開発チームと鶴谷さんはもらった茶葉の配合をそのまま試作品に反映。15年4月、新たな試作品を携えて石川県を再び訪れた。

 試作品の棒ほうじ茶を飲んだ油谷さんは「自分のイメージに近いな」と一言。そしてついに「ここまでやったから、やってみようか」と茶葉の提供を約束してくれた。

 こうして“三顧の礼”で油谷さんの協力を取り付けた鶴谷さん。その後も油谷さんは正式な開発チームの一員でないにもかかわらず、お茶をおいしくするいろいろなアイデアを鶴谷さんたちに授けた。鶴谷さんは「彼に後から聞くと、実は加賀棒ほうじ茶のペットボトル商品は地元で既に存在しており、それよりおいしい商品を作りたいと思っていたようだ。商品化に全く興味が無かったわけではなく、私と会ってそこに強く目を向けるようになった」とみる。

 15年8月末に発売したこの加賀棒ほうじ茶。北陸新幹線開通を機にJR東日本が駅構内の自動販売機に置いたこともあり、発売3週間で欠品になるほどの売れ行き。後にはスターバックスが「ラテ」系などの商品で追随するほどのブームになった。

 ただ、加賀棒ほうじ茶が盛り上げたのは全国規模のメーカーやカフェチェーンの商品だけではない。当の油谷製茶も、このペットボトル発売前と比べ現在の茶葉の売り上げは約3倍に。ペットボトルと似た赤と黒の模様をあしらった茶葉のパッケージも好評という。油谷さんは「全国の(百貨店の)物産展などに出店すると、お客さんは『(ペットボトルで)飲んだことがある。おいしいですよね』と言って買ってくれる」と話す。鶴谷さんも「お土産としても地元の人向け商品としても棒ほうじ茶は特に産地で買われるようになった」とみる。

photo 鶴谷さんが全国でほれ込み集めた素材から作られた国産茶のシリーズ

 鶴谷さんが着目する素材の中には、歴史があるものの今はちょっと廃れかけ、地域で一部の生産者がほそぼそと作り続けている物も多い。「私は地域の素材にほれ込み生産者を“口説き落とす”。そうして全国でこの素材を使った商品が売れれば、その地域の食文化が継承されることになる」(鶴谷さん)。

 石川県以外でも、例えば鹿児島県南九州市の名産「知覧茶」を巡っては有名な緑茶の方ではなく、約50年前までは生産していたものの今や地元でも下火になっていた国産紅茶に着目。やはり地元の農協を説得して供給してもらい、ペットボトル商品にすることで掘り起こしに成功した。

 「最近は(生産者側からの)売り込みもかなり増えた。すごく“ビジネス臭”のする人と出会うこともあるが、そういう人とは組まない」と話す鶴谷さん。あくまで油谷さんのように本当の意味で「クラフト」、つまり手作りにこだわる人と仕事をするのが成功の秘訣なのだという。心からほれ込める素材を求め、鶴谷さんのお茶探しの旅は続く。

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