ロードスターの改良とスポーツカー談義池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2018年08月20日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

ソフトトップとSKYACTIV-G 2.0

 しかしそうなると、ことエンジンについては「ソフトトップにも2.0を!」と言う市場の声がさらに大きくなるだろう。これまでのように「あれはあまり繊細なことを言わない北米向けでして」という言いわけが通用しなくなる。

 ここに関してはマツダは頑固である。何しろNDのデビュー時「1.5はいらないから2.0だけ寄越せ」と言う米国に対して「そんなこと言うならNDは1台も出さない!」と啖呵を切ったという。ロードスター30年の歴史を振り返って、世界で一番台数を売ってきた米国マーケットに対して良くぞ言ったものだと思う。

 マツダは現行ロードスターの開発に際して「軽快感」「手の内/意のまま感」「開放感」の3つをテーマに置いた。加速タイムが何秒とか、どこかのサーキットを何秒とか、そういうパフォーマンスデータではない。乗って気持ち良いこと。笑顔になれることを目標にした。

各気筒ごとにバランスウェイトを備えたフルカウンタークランクを採用。許容回転の引き上げと合わせ回転のバランス感が向上した 各気筒ごとにバランスウェイトを備えたフルカウンタークランクを採用。許容回転の引き上げと合わせ回転のバランス感が向上した

 そして、予測車両重量に対して各回転域やシーンごとに気持ちの良い加速感をまず設定し、そのために必要なトルクをグラフにプロットしてトルクカーブを描いた。「手持ちのエンジンをチューンしたらこうなりました」ではなく、ロードスターにとって最良のパワーユニットの性能はどうあるべきかから定義し、その実現手段としてSKYACTIV-G 1.5が選ばれ、必要な気持ち良さを実現するためのチューニングが施されたのだ。だからマツダのエンジニアにとっては、ロードスターのためにベストな性能を突き詰めたSKYACTIV-G 1.5こそが唯一無二のロードスター用ユニットなのである。

 しかし北米の求めるものは違う。彼らの求めるものは、できればV8の大排気量で抑揚に富んだメリハリボディで、太くてデカいタイヤを履きこなし、踏めば速いクルマだ。以前マツダで、北米が出してきたロードスターのデザインアイデアを見たことがあるが、それらを見る限り「小さく軽い」ことをモチーフとする精神は感じられなかった。どれもACコブラかコルベットに通じる派手で華やかなデザインだった。確かにカッコは良い。だが一言でいって求めるサイズ感が違う。小さいクルマのためのデザインではなかった。

 不思議なことに米国人は「小さく軽い」を旨とするライトウェイトスポーツが大好きだ。歴史上も英国のライトウェイトスポーツは米国で爆発的に売れたし、ロードスターもまたそうである。ところが、彼らに欲しいものを聞くと、アメリカンスポーツに引っ張られてしまうのだ。米国という国はデカい。ライトウェイトスポーツの精神を深く理解している顧客も決して少なくはないはずなのだが、それ以上に普通の人はもっと多い。多数派の客の意見は大きくてパワーのあるクルマを志向してしまう。彼らの感覚からすれば1.5リッターの4気筒エンジンはわれわれの思う原付用エンジンのようなものなのかもしれない。

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