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» 2018年12月07日 07時00分 公開

杉山淳一の「週刊鉄道経済」:この冬話題の鉄道映画2本! 描かれたのは「地方鉄道」が果たす役割 (5/5)

[杉山淳一,ITmedia]
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 主人公の晶(有村架純)は、子持ちのイラストレーターの修平(青木崇高)と結婚した。しかし修平が急死。家賃滞納で東京の住まいを追い出され、血のつながらない息子の駿也(歸山竜成)と、修平の父、節夫(國村隼)を頼って鹿児島に来た。自立を急ぐ晶に鉄道好きの駿也が「晶ちゃんの運転する列車に乗りたい」と言う。その言葉に後押しされて、晶は運転士の道に進む。同世代の女性と出会い、励まし、励まされ、鉄道運転士の役割を自覚。一人前の運転士として成長していく。

 晶はJR九州の門司社員研修センターで学び、動力車運転免許を取得。肥薩おれんじ鉄道では先輩運転士でもある義父から指導を受ける。しかし、運転士なら誰でも遭遇するであろう「事件」によって挫折。自分はなぜ運転士になりたかったかを見つめ直す。筆者の見立てでは、晶は「血のつながらない家族との距離を縮めるため、鉄道員になりたかった」と思う。そこに追い打ちをかけるように、小学校で家族の在り方を考えさせられる行事があり、晶と駿也の間に溝ができてしまう。晶に帰る場所はあるだろうか……。

 車両の魅力に乏しいとゼネラルプロデューサーを悩ませた(?) 肥薩おれんじ鉄道だけど、トンネルだらけの九州新幹線に比べれば車窓風景に恵まれている。看板列車の「おれんじ食堂」もしっかり登場し、PR効果も嫌みなく織り込まれた。『えちてつ物語』にも共通するけれど、ドローンを使って列車と風景をダイナミックに追っていく描写は美しい。

人のつながり、鉄道の軸

 両作品の主人公は女性。どちらも血のつながりのない人と家族になっていく物語。アテンダントと運転士の違いこそあれ、女性が地方に転出し、仕事で成長していく姿を描く。偶然としてはできすぎた一致だけど、どちらも主人公の成長を描く物語として王道を選べばこうなるだろう。ネタバレかもしれないけれど、どちらもヒューマンドラマとしてハッピーエンド。安心して見られる作品だ。

 ただし、筆者としては『えちてつ物語』をちょっとひいきしたい。えちぜん鉄道には何度か訪れたし、おそらくこの映画のロケと同じ時期に現地で左義長祭を見たから身近に感じるという理由もある。『かぞくいろ -RAILWAYS わたしたちの出発-』はトップスターを主人公に据え、配給映画館も多い。宣伝もメディアの露出も多い。それに比べて、『えちてつ物語』は上映館も少なく、全国では福井県の5館を含めて11館。2月までに合計42館まで増える予定。今のところ都内では有楽町スバル座のみだ。

 もちろん、どちらも素晴らしい作品だ。感動の奥に「家族とはなにか」「地方にとって鉄道はどのような存在か」を読み取れる。ぜひ、両方ともスクリーンで見てほしい。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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