中国人旅行者はなぜ青森と佐賀に殺到するのか?爆買から一転(2/2 ページ)

» 2019年03月05日 16時43分 公開
[秀村雨ITmedia]
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LCCと直行便、QR決済の影響

 佐賀と上海は春秋航空のLCC(格安航空会社)で結ばれていて、天津と青森は直行便があるなど、アクセスの良さも効いている。最初は東京や京都に行っても、2回目、3回目は青森や佐賀に行ってみようとなる。

 中国は地方都市でも大きな街が多く、大気汚染もある。青森や佐賀は好奇心を満足させてくれるだけでなく、中国人の「田舎のきれいな空気が吸いたい」という欲求も満たしてくれるのだ。

 さらに青森はWeChat Pay(ウィーチャットペイ)やAliPay(アリペイ)対応を進めているので、中国人にとって歓迎されている雰囲気を感じ取れる。中国は、屋台であっても高齢の人であっても、QRコード決済を使う。そういった暮らしをしている人にとって、QRコード決済が使えないことは当然不便。中国人になじみの決済環境が整っていることは歓迎されていると感じやすい。

タクシーもウィーチャットペイで支払うのが、中国では普通だ

 WeChat PayやAliPayは中国人の生活に深く浸透していて、財布を持たない人も多い。また個人の信用を格付けするシステムがあるので、サービスを利用すると格付けが上がって特典がもらえ、さらに利用が促進される仕組みだ。

 そして佐賀県などが行っている動画による観光PRも効果が強い。しかも佐賀県は中国の動画サイト・Weibo(ウェイボー・微博)のアカウントを作って動画を流しているので、多くの中国人が目にする。

佐賀県が運営するウェイボーのアカウント

爆買い終了と中国の変化

 また、中国人による「爆買」の背景も知ってほしい。中国国内はまだまだ模造品リスクがあり、何も考えなくても本物の商品が買える日本の環境は魅力的に映っていた。日本への旅行が特別なことだった頃には、親族や友人から頼まれて大量の日本製品を買って帰っていた。だが、一通り欲しいものを買ったら今度は別なことをしたくなる。

 例えば「コミケで同人誌を買うなど自分の趣味に関することを体験する」「予約が取りにくい高級店で料理を楽しむ」といった、日本人でもやってみたいと思うことを中国人も同じようにしたいと考える。かつての日本人がパックツアーの海外旅行でブランド品を大量に買っていた状況から、徐々に変化し、多様化したのと同じだろう。

 「なぜ中国人は青森や佐賀が好きなのか?」と考えると分からなくなってしまうが、中国人が何か特別な行動をしているわけではない。つまり「旅行に何度も行く人がどのような行動をするか?」と考えれば、中国人が青森や佐賀に行く理由も、容易に理解できるのである。

 筆者は情報番組に出演し、中国人としてコメントをすることもあるが、日本のテレビは爆買、そしてマナーの悪い中国人を典型的な中国のイメージとして取り上げることも多い。おそらくそのような姿が強く印象に残っているからだとは思うが、筆者としては残念だ。

 しかし、当然ながら中国もどんどん変わっていく。モノに満たされたら今度は新しい体験をしたくなる。マナーについても自然にもっと質の高いマナーを求めるようになる。日本に来てこういうマナーは気持ちがいいと思えば、中国に帰ってから中国人にも同じマナーを要求するようになるだろう。日本への観光客が今後さらに増えれば、そんな効果も期待できるかもしれない。

執筆者 秀村 雨 リサーチ会社勤務・コメンテーター

中国天津出身。18歳で来日。テレビタレントとしてバラエティ番組に多数出演。最近ではコメンテーターとして情報番組で中国事情について解説。現在は日本のリサーチ会社に勤務する傍ら、起業準備中。趣味は筋トレ。テコンドーは黒帯。

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