バッテリースワップ式EVへの期待と現実池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2019年03月25日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 しかも自宅なら数百円で充電できるという条件と戦わなくてはならない。スタンドで写真にあるような大型の専用設備を導入して、300キロ以上もあるバッテリーを資格保有者が交換しても、交換工賃に1000円を払ってくれるかどうかは疑わしい。ユーザーにしてみれば、コストが倍になるくらいなら、家で充電することを選ぶだろう。

 バッテリーを分割して、順に交換したらどうか? という声も聞くが、例えば6分割して1つ50キロ程度にすると仮定しよう。それだけ細かく分割しても人力でカセット交換できる重量にはならないし、よっぽどインテリジェンスな接続方法を取らない限り、6つのバッテリーが全部が均等に減る。それが嫌なら、リアルタイムな必要電力に応じて複数バッテリーの接続を内部的に切り替える複雑な仕組みが求められるだろう。目的に対して手段が複雑過ぎるように思う。

 だからといって、ただ単純に分割するだけなら結局一番減ったバッテリーがボトルネックになるので、全部一緒に交換しないと、一番減ったバッテリーが空になったところでクルマは動かなくなる。それでは分割のメリットはない。

 仮に特殊な制御を加えて、順番に使うようにしたとしても、今度は頻繁にスタンドに寄らなくてはならなくなるし、交換工賃はおそらくその度発生する。重量300キロのバッテリーで距離300キロを走れるとして、6分割すれば距離50キロごとにバッテリー交換となる。バッテリーを長寿化するには、6つの充電/放電サイクルの回数が異なるバッテリーを最適化して負荷を配分しなくてはならなくなり、手間ばかり増える。これではユーザーもスタンドも疲弊してしまう。過去にスワップ方式に進出して撤退した会社はどうやってももうかる見込みがないので廃業したのだ。

 EVの動力用バッテリーは高電圧が求められる。モーターを駆動する仕事量(ワット:厳密には単位時間仕事量で、EVで使われる単位はキロワット・アワー)を決めるのは電流(アンペア)x 電圧(ボルト)だ。電流を多く流すためには電源系のケーブルを太くしなくてはならず、太いケーブルは高価で重くなる。だからメーカーとしては電圧を上げたいのだ。普通は200ボルト以上。人が感電しても大丈夫なガイドラインは一般に48ボルト程度といわれている。本当は電流量も関係するのだが、取り扱いに資格が必要とされる区分が48ボルトになっているので、まあ基準として一定のコンセンサスが得られている数値ではある。という前提で見ると、200ボルトの高電圧は、密閉構造が取りにくい脱着式で接点に水が入ったりするとかなり危ない。

 過去に脱着式のバッテリーを採用した会社で故障の頻発が報告されたケースがあった。それが製品固有のものか、スワップ方式に起因するのかは、例が少なすぎて判断できないが、故障するとすれば所有権が誰に帰属するかが問題になる。普通に考えてバッテリーはガソリンスタンドかメーカーが所有して、その使用権をドライバーが借りる形になるだろう。

 重いバッテリーを脱着式にするためには、ボディ下部からアクセスしやすい必要があり、構造上、保護が十分にできない恐れがある。一方、バッテリーはどう安くても50万円越えと非常に高価なのだが、仮に段差でバッテリーを打って壊した時、それは誰が弁償するのだろう。保険などを使う方法もあるが、これもコスト増の原因となる。ましてや自然故障の類は責任の所在を考えるだけでも面倒くさい。もっと安いものなら、一律所有者、つまりリースする企業の負担でいいのだが、高価なものでそれをやれば当然サービス価格に影響が出る。

常識的には難しい

 結局のところ、交換式が狙うのは外出先での充電時間の短縮なのだが、これまで書いてきたような様々なネガと比べて、メリットが上回るかといえば、どうも旗色が良くない。

 現状、正しいEVの使い方は、夜間自宅でバッテリーの寿命減を抑えながら緩速充電を行い、原則的にはその航続距離の中で使う。どうしても長距離移動したい場合は、食事やお茶の時間と上手く組み合わせて30分程度の急速充電を行うという運用方法でカバーした方が、ずっと現実的なのだ。

 バッテリースワップ式のEVはよほどのことがない限り復活しないと考えるのが常識的判断だと筆者は思う。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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