就活生暴行事件を生んだ真犯人OB訪問という罠(1/3 ページ)

» 2019年04月04日 10時55分 公開
[増沢隆太INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:増沢隆太(ますざわ・りゅうた)

株式会社RMロンドンパートナーズ代表取締役。キャリアとコミュニケーションの専門家として、芸能人や政治家の謝罪会見などをコミュニケーションや危機管理の視点で、テレビ、ラジオ、新聞等において解説している。大学や企業でのキャリア開発やコミュニケーション講座を全国で展開中。著書「謝罪の作法」他多数。


 就職活動中の学生と個人的に会い、性的暴行を加えた一流企業社員が懲戒解雇されました。一件だけでなく他社でも同類事件が起きており、就活学生の身に危険が及ぶ環境が問題視されています。大学のキャリア支援の現場でも学生に注意喚起をしていますが、一方で事件を生む土壌も現在の就活システムには潜んでいるのです。

1.OB訪問という罠

 私も理系学生向けに就活ガイドブックを書いていますが、その中で「OBOG訪問」を無条件に推奨はしていません。なぜOB訪問が必要なのか、その目的を明確にせず行うのは無駄であり、返って採用の可能性も下げてしまう恐れを訴えています。

 しかしほとんどの就活本や大学の就活講座では、OB訪問は「するもの」「するのが当然」というトーンで説明されます。実際就活現場では、学生を何も考えずにOB訪問しなければという義務感に駆り立てる雰囲気があります。一方、企業も大学も個人情報にはうるさい時代ですから、かつてのように自分の就職先企業が○○大学卒であるなど、超プライベートな個人情報を勝手に開示することはありません。

 困ったのは大学です。しかたなく、卒業する学生に卒業後の進路調査を行う際に、OB訪問の可否や連絡先公開を承認するようアンケートを取るなどして、かろうじてOB情報を備えているのが実情です。

 では学生はどうやってOB訪問をするのでしょう?

2.OB訪問ビジネス

 人材情報会社はここに目を付けました。社会人に自ら出身大学を登録させればコンプライアンスには反しません。またそうした情報登録をする学生は有名大、一流大生が圧倒的に多く、後輩学生に大きな顔ができます。

 こうして有名企業勤務のOBという、神の御宣託(ごせんたく)を授けるがごとき存在となり、それを押しいただきたがる就活学生という絶妙のサプライ&デマンドのバランスが成立します。一流大学生、一流企業人というマーケットバリューを持つ人材が登録することで、人材会社にとってOBマッチングはおいしいビジネスになります。ここ数年でこうしたOB紹介ビジネスは大きく成長しています。

 基本的なシステムはマッチングサイトですから、正にインターネットの独壇場で、全く新たなシステムを作る必要もありません。またあくまて「当人同士のお見合いの場」である以上、マッチング会社は場の提供以上の責任は持ちません。登録する一流企業の人材は、将来のヘッドハントの人材データに使えるでしょうし、登録学生はその候補人材となります。OB紹介ビジネスで飛び交う登録データは、貴重な価値を生む2次データになることでしょう。

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