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» 2019年06月26日 07時10分 公開

ビジネス戦略にも通じる歌姫の“大転換”:安室奈美恵がJ-POPの女王になれた秘密――「売れたモノこそ実は先鋭的である」 (1/3)

平成を代表するJ-POPの女王、安室奈美恵。もともとは「ギャルのカリスマ」だった。その「大転換」の秘密に迫る。

[高橋芳朗,ITmedia]

編集部からのお知らせ:

本記事は、TBSラジオで平日午前11時〜午後1時に放送している生ワイド番組『ジェーン・スー 生活は踊る』内の音楽コラムコーナーをまとめた書籍『生活が踊る歌 -TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」音楽コラム傑作選』(著・高橋芳朗、駒草出版)の中から一部抜粋し、転載したものです。音楽ジャーナリスト、高橋芳朗さんによる、ビジネスのヒントにもなる音楽シーン分析をお楽しみください。


 2017年9月20日に引退を発表した安室奈美恵(41、編集部注:18年9月に引退)さん。安室さんというと欧米のダンスミュージックの流行を積極的に取り入れた本格派シンガーのイメージが強いと思いますが、ここではデビューからSUPER MONKEY'S時代、そして小室哲哉さんがプロデュースを手掛けていたTK時代を経て、現在に至る安室さんの方向性を決定づけたターニングポイントを当時の洋楽のヒット曲を交えながら検証してみたいと思います。

photo ギャルのカリスマから平成を代表する歌姫に上り詰めた安室奈美恵さん(ロイター提供)

ギャルのカリスマからJ-POPの女王へ

 ギャルのカリスマからJ-POPの女王へ。安室さんの音楽的な転機となったポイントはいくつか挙げられると思いますが、私見ではTK体制になってから3枚目のシングル、1996年3月リリースの「Don't wanna cry」が最初の大きな分岐点になると考えています。当時安室さんは19歳でした。

 「Don't wanna cry」でサウンド面での方向転換があったことは、この1つ前のシングル、95年12月リリースの「Chase the Chance」と聴き比べてみれば明白でしょう。SUPER MONKEY'S時代の流れを汲(く)んだユーロビート調の「Chase the Chance」を踏まえて、改めて「Don't wanna cry」を聴いてみてください。

 「Don't wanna cry」が「Chase the Chance」から大きく変わった点としては、まず明確に曲のテンポが落ちています。そしてリズムがファンキーになっている。つまりブラックミュージック度がぐっと増していることがよく分かると思います。

 これは音楽的な部分とは別の話ですが、ずっと安室さんと活動を共にしていたMAXが彼女のバックダンサーから離れたのもこの「Don't wanna cry」からになります。ここからはMAXに代わって黒人のダンサーとコーラスがフィーチャーされるケースが増えますが、これは従来のユーロビートのイメージを払拭しようという意図があったのでしょう。

 こうした安室さんのブラックミュージック志向、曲のテンポを落とすなどのサウンド面での変化は、実は彼女の作品に限ったことではありませんでした。これは90年代半ば以降、世界的な傾向として起きていた現象だったんです。

 例えば、マドンナが94年にリリースしたアルバム『Bedtime Stories』。ここでマドンナは安室さんと同様、それまでのダンスミュージック路線からブラックミュージック寄りのサウンドにシフトしています。ポップミュージックの潮目は、90年代中盤あたりから明らかに変わってきていました。

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