インタビュー
» 2019年07月18日 10時00分 公開

ボーダーレスを生む教育:エストニアが「電子国家」に生まれ変わった本当の理由 (1/3)

5月に行政手続きを電子申請化する「デジタルファースト法」が成立した。マイナンバー制度のロールモデルであるエストニアはなぜ電子政府の仕組みを進めたのか。「e-Residency」(電子居住権制度)公式パートナーであるEstLynxのポール・ハッラステCEOに話を聞いた。

[らいら,ITmedia]

 2019年5月、行政手続きを電子申請化する「デジタルファースト法」が成立しました。今後は日本でも電子政府化の動きが進みます。そこでロールモデルとなりそうなのが電子国家エストニアです。世界初の国政選挙での電子投票、電子居住権制度「e-Residency」など、世界に先がけて電子政府としての仕組みを構築してきました。

 なぜ人口130万人程度の小国エストニアが電子政府化を進めたのか。電子国家での生活はどのようなものなのか? エストニア人で、e-Residency公式パートナーであるEstLynx社CEOのポール・ハッラステさんに話を聞きました。

エストニアの首都タリンの旧市街(写真: ゲッティイメージズ)

誰でも簡単にエストニアの「仮想住民」になれる

――ここ数年、日本では「電子国家エストニア」に注目が集まっています。ポールさんは日本に住んでいて、自分の国が注目されている実感はありますか?

ポール すごくあります。2015年に初めて来日しましたが、当時はエストニア出身だと話すと「バルト三国」や「ロシアに近い国」と言われることが多かったです。ところが、2017年末のブロックチェーンと仮想通貨ブームの頃から、エストニアの取り組みが大きく注目されるようになりました。今では「電子国家の国ですね!」と言われるようになりましたね。

――ポールさんは現在日本で働いているそうですが、日本に来たきっかけは?

ポール 15歳のとき、エストニアのテレビで黒澤明監督や北野武監督の映画を見て興味を持ち、日本語を勉強し始めました。高校生のときに日本に留学しようとしたら、人気のために受け入れ人数がオーバーして行けなかったのです。代わりに中国の深センに行って中国語を学びました。

 帰国後はエストニアの大学でアジア研究をしたのち、早稲田大学に進学しました。進学先は中国と迷ったのですが、やっぱり日本が“ファーストラブ”だったので。そのまま日本のスタートアップに就職し、今は別の広告代理店で正社員として働きつつ、EstLynx社を経営しています。

黒澤作品なら「羅生門」「乱」、北野作品なら「HANA-BI」「座頭市」などが好きというポール・ハッラステさん

――EstLynxはエストニアの電子居住権制度「e-Residency」の公式パートナーだそうですが、具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか?

ポール 2018年はイベントの開催やWebメディアでの発信などを通じて、e-Residencyの周知活動をしていました。今はエストニア法人を設立したい人に向けたビジネスコンサルを行っています。

――e-Residencyについて詳しく教えてください。私のような、エストニアに何のゆかりもない日本人でも申し込めるのでしょうか?

ポール 申請は申請ページから誰でもできます。マネーロンダリングなどの金融犯罪歴がなければ大抵通ります(笑)。パスポート、顔写真や申請料の100ユーロがあれば、日本にいながらオンラインでe-residentというエストニアの仮想住民になれるのです。

 どの国からの申請が多いか、男女比率、年齢層などの情報は、公式サイトにあるダッシュボードで見ることができます。「e-Residencyはどんな人が使っているか」の情報が透明度高く公開されています。

――ダッシュボードを見ると、申請を却下されたのは全体の0.5%くらい。日本に注目すると、申請数は全体の7位、法人設立数は12位だと分かりますね。

ポール e-Residencyがあれば、エストニア法人の設立も日本からオンラインでできます。どういう会社を作りたいか決めていれば1時間以内の手続きで完了できますし、審査も1日以内に終わることがほとんどです。日本だと、必ず税務署など役所に行って書類を提出する必要がありますよね。紙の書類を手渡しするのは不要な作業なのにと思います。

e-Residencyの公式サイトで公開されているダッシュボード

――他に日本で「面倒だなあ」と感じた行政手続きはありますか?

ポール 行政手続きは面倒ですね。例えば、最近体験したことで言えば、引っ越しをするときに、住んでいた場所と引っ越し先の両方で役所の窓口に行き手続きする必要がありました。エストニアなら、結婚、離婚、不動産の手続き以外は全部オンラインでできます。

――逆に、なぜそれらはリアルでの手続きが必要なのでしょうか。

ポール 真剣に考えた上で判断することなので、オンラインのみでできないことになっています。例えば、酔っぱらった勢いで夫婦げんかで離婚してしまうことがありえます(笑)。それ以外はほぼ電子化されています。子供が生まれたとき、エストニア人は家に帰って自分のIDのマイページにログインします。そこにはすでに病院から出産データが届いているので、子どもの情報のところに名前を入力します。すると、国のデータに同期されて子どもの登録が完了します。

――さすが電子国家……! ただ、全ての個人情報がそうやってクラウドで管理されるとなると、データの改ざんや情報漏えいに対する不安はありませんか?

ポール ありません。ブロックチェーンのような技術を使っているので。行政のデータベースの移動にはタイムスタンプがあって、改ざん不可能なチェーンとして残っています。データを人間の意志で保護するのではなく、改ざん不可能な仕組みのテクノロジーで守っているのです。

 また、「この子は誰の子どもか」といった個人情報は、一般人は本人以外見られないようになっています。医者や警察などは一部の情報をチェックする権利がありますが、もし彼らが情報にアクセスしたときは、本人にメールでその旨が通知されます。それに対して問い合わせもできますし、適切な閲覧理由がなければ犯罪となり処罰されるようになっています。

――他にも、例えばサイバー戦争の標的になる心配などはありませんか。

ポール 実際に、2007年にロシアから大規模なサイバー攻撃がありました。それが主なきっかけで、2008年に首都のタリンにNATOのサイバーセキュリティセンター(CCDCOE)が作られました。毎年サイバー防衛カンファレンスも行われています。おかげで今はハッキング対策がされた状態で安全に守られているように思われています。

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