クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

SUVが売れる理由、セダンが売れない理由池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2019年10月01日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 その時、おそらくセダンはまた違うものになる。例えば、欧州ではすでにそれが始まっている。実用車としての価値を失ったセダンに何が残ったかといえばプロトコル性だ。

 ちょうどスーツのように、フォーマルあるいはフォーマルに近いTPOで、セダンはマナー的に振る舞うためのクルマとしての機能に特化し始めた。そういうプロトコル性は、ステータスに隣接したものだが、本質的に違う。ステータスは外部評価としての格付けだが、プロトコルはそれを必要とする日常がある人のものだ。

 メルセデス・ベンツのCLSから始まったクーペスタイルのセダンは、もうリヤシートの実用性を優先しない。そこを求める人にはミニバンがある。スペースで戦っても勝ち目はない。プロトコルのためのセダンであれば、リヤシートを見切ってでもスタイリッシュな方がいい。ただし2ドアではダメなのだ。4ドアでなければプロトコルにならない。

リヤリートの居住性を見切り、スタイリッシュな方向にシフトしつつあるセダン

 すでにかつての意味でのセダンは、特に大型のものはもう国内にほぼ存在しない。シートそのもののサイズやスペースが十分でも、リヤシートの乗降性、特に頭とピラーの関係において、スタイルを曲げてまで後席住人をもてなすようなクルマは、先代クラウンを最後に絶滅したに等しい。

 むしろ、いまでもクルマにステータスを求める途上国で、高級車として扱われるCセグメントセダンの方がそこはよっぽどしっかりしているのだ。

 未来がどうなるかはまだ分からないが、少なくとも今、この瞬間を切り取れば、セダンにはステータスのしがらみがあり、SUVにはそれがない。メーカーはそこからどうやって脱却するかに知恵を絞っているのだろうが、原因はクルマそのものにあるのではなく、社会全体が共有するイメージにある。筆者は、それがセダンとSUVの人気の違いを生んでいるのだと思っている。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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