クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

SUVが売れる理由、セダンが売れない理由池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2019年10月01日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 裏を返せば、速度域が低い日本や米国でいち早くミニバンの時代がやってきたことは理にかなっている。自動車がステータスシンボルでなくなり実用性重視になると、飛ばさないのなら室内は広いに越したことはないからだ。ところが欧州でも徐々に超高速性能が生かせなくなってくる。

 89年にベルリンの壁が崩壊すると、ドイツを中心とした西側諸国は、東側の安価な土地と労働力をビジネスに組み入れて、一気に好景気になった。東側諸国もその恩恵に与って、経済が急速に上昇し、購買力が上がっていった。その結果、欧州全体の自動車の保有台数が急速に増え、欧州の道路インフラがキャパシティオーバーになっていく。高速道路は慢性的に渋滞し、アウトバーンの速度無制限区間も、前のクルマが詰まって以前のようには飛ばせなくなり、セダンの高速性が役立つ場面が減った。

 その結果、彼の地でもピープルムーバーと呼ばれる、乗用車の室内空間をかさ上げし、多人数乗りに対応したクルマが増えていく。日本でいえば、アコードから派生したホンダのオデッセイと同じタイプだ。日本が箱型のミニバンを選び、欧州が乗用車ベースのピープルムーバーを選んだのは、それでもまだ両国の道路に速度差があるからだろう。

設計者の苦悩

 さて、ひとまず話を日本に限定しよう。一時ほどではないにせよ、今でもミニバンはそこそこの人気を保っているが、そのマーケットを侵食しつつあるのはSUVである。SUVとミニバンの最も顕著な違いはスライドドアのあるなしだ。

 実はこのスライドドアは、極めてエンジニア泣かせの代物なのだ。端的にいえばボディ剛性がどうしても低くなる。

 スライドドアを採用するのは乗降性を上げるためだ。だから床板を可能な限り下げたい。すると床板の厚みが取れない。となると立体構築した床板で剛性を確保できなくなる。さらにあまり頭をかがめずに乗降できるように、ドア上部もできるだけ天井近くまで解放したい。こうなると鴨居(かもい)部分で剛性を出すこともできない。

 乗り込んだ後はウォークスルーが求められるので、剛性を稼ぎ易いセンタートンネルも使えない。つまりボディの剛性を担保する構造のほとんどが却下された状態で、「設計せよ」といわれるわけだ。

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