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「がん離職」を防ぐために100万円支給――「社員の病気=経営課題」に会社はどう向き合ったか連載「病と仕事」(2/3 ページ)

» 2019年11月11日 05時00分 公開
[小林義崇ITmedia]

健康な人にも突然もたらされる、がんの宣告

 同社には、がん基金以外にも、がんに罹患した社員が活用できる制度がある。例えば、未使用の有給休暇を1年につき最大10日間、療養特別休暇として最大75日間積み立てられる制度。そして、未使用の有給休暇を他の社員に寄付できるという制度も設けてある。

 現役の会社員にとって、がんに罹患した際の経済的損失は治療費にとどまらない。有給休暇を使い切った場合、一定期間は傷病手当金による補助はあるものの、収入減は割けられないからだ。ガデリウスグループの福利厚生制度は、こうした問題に対する支援になるだろう。

  1月に制定された「年次有給休暇の寄付」制度は、10月31日まで募集を呼び掛け、28人の社員から(1人当たり1日から15日)合計224日の寄付の申し出があったという。寄付された有給休暇を使用することで、該当社員は会社を辞めることなく治療を続けることがしやすくなる。

 このほか、テレワークや時短勤務、コアタイムなしのフレックス勤務制度といった柔軟な働き方を可能とする仕組みや、相談窓口の設置といった支援制度を用意している同社は、18年に、がんの治療をしながら働きやすい職場や社会を実現するために各企業の取り組みを表彰する「がんアライアワード」において、ゴールド賞を受賞した。

phot ライフネット生命が事務局を務めるがんアライ部主催の「がんアライアワード」においてゴールド賞を受賞した(がんアライ部提供)

 このように、日本企業ではあまり見られないユニークな福利厚生制度を多数導入している同社だが、これらの取り組みについて、社員にはどのように受け止められているのだろうか。乳がんに罹患し、がん基金などの制度を利用したという高原由紀子さん(正確には高は「はしごだか」)にも話を聞いた。高原さんは、がんを認識するまでの経緯をこのように振り返る。

 「最初に違和感に気づいたのは、18年2月のことです。胸のあたりがかゆくなり、掻いてみると引っ掛かりを感じました。それが異様に硬くて心配になり、3月に病院で受診すると、「おそらく大丈夫でしょう」と言われたのですが、その後、再検査を受けると“しこり”が大きくなっていて、さらに細胞診、組織診を経て、8月に乳がん暫定ステージ1という診断結果が出ました。

 細胞診の結果、『良くないものが出ました』と初めて宣告されたときには、診断を受け入れませんでした。それまで、大きな病気をしたこともなかったので……『まさか自分が』と……。『検査ミスに違いない』と信じることにしたんです」

 その後、組織診で悪性度が比較的低いがんであることや、暫定ステージが1だということが分かった。その説明に納得ができたので、医師を信頼して転院はせずに、手術を受けることを決意したと話す。『良くない』と分かった段階で手術室はおさえられており、診断結果が出た8月のうちに手術を受けることができたという。

 「組織診の検査承諾のとき、サインをする手が震えていたことは、今でも覚えています。『いつまで生きられるのだろう』と、不安で押しつぶされそうでした。ただ、会社のがん基金を利用して元気に復帰された方がいらっしゃることを知っていたので、少なくとも経済面の不安を感じたことはなかったと思います」

 高原さんは、手術から2日後に退院の日を迎えることができた。しかし、手術で切除した部分の病理検査はその後も引き続きおこなわれ、病巣が完全に取りきれたかどうか、リンパへの転移がないかどうかが精密に調べられる。最終的な診断と治療方法は、その結果を待たなければ決まらない。そして手術から1カ月後に最終的にステージ1が確定し、ほぼ当初の診断通りに、20日の放射線治療と、10年のホルモン剤療法がとられることになった。

phot がん基金などの制度を利用した高原由紀子さん

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