日米貿易協定は“不平等条約”か――安倍政権が国民に隠す「真の欺瞞」“いま”が分かるビジネス塾(2/3 ページ)

» 2019年12月03日 08時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

国民に「虚偽説明」した日本政府

 最終的に自動車の追加関税発動は見送られたので、最悪の事態は回避できたという点で、日本側は粘り強く交渉したと評価できる。だが、自動車の追加関税を回避したという話にはウラがあった。

 今回の協定では発動されなかったものの、自動車の関税については交渉が継続扱いとなり、実質的には先送りにされてしまったからである。協定の合意文書には「自動車および自動車部品の関税は、関税の撤廃に関するさらなる交渉の対象となる」と、今後も継続交渉することがハッキリと明記された。

 トランプ大統領は次期大統領選挙を控え、交渉妥結を急いでいた。追加関税を巡って交渉が長引くことは避けたかったものと思われる。一方で、自動車の追加関税は、対日交渉の切り札であり、米国にとっては何としても取っておきたいカードといえる。

photo トランプ大統領の次期大統領選への思惑が日米貿易交渉にも大きく影響(提供:ロイター)

 その結果、協定の合意文書には継続交渉が明記され、今後も交渉を続けることになった。つまり米国としては、いつでも「自動車の追加関税を発動するぞ」といって日本に脅しをかけることが可能であり、場合によっては「関税発動を回避したければ、米国製の武器をもっと買え」といった、いわゆるパッケージディール(複数のテーマを絡めて交渉すること)に持ち込むこともできるわけだ。

 交渉というものは、両者の基本的な力関係によって、交渉が始まる前からある程度、結果が見えている。日米貿易交渉について言えば、日本経済が米国経済に大きく依存している限り、最終的には米国の要求をのまざるを得ない。米国からの要求を拒みたければ、米国経済におんぶにだっこという現状から脱却するしか方法はないが、日本人にその勇気や覚悟はないだろう(日本人は自国に対してモノ作りの国だとの意識を強く持っているが、そうであるならば、日本製品を大量に買ってくれる相手国は、突出した消費大国である米国以外にはあり得ず、米国依存からは脱却できない)。

 その点からすると、米国が日本の最大の弱点である自動車の追加関税を手放さないのは当然であり、継続協議扱いもやむを得ないとの見方ができる。

 だが今回の交渉における日本側のスタンスには問題があるといわざるを得ない。その理由は、日本政府が自動車の追加関税を巡って、事実上、虚偽の説明を行っているからである。

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