ESGは本当に企業価値を上げる? ESG投資の注目は「資本コスト」(2/3 ページ)

» 2019年12月04日 07時29分 公開
[斎藤健二ITmedia]

ESGへの取り組みは売り上げや利益の上昇につながるのか

 GPIFなどの年金基金がESG投資に取り組む理由の1つは、投資額が大きく、市場全体に幅広く分散して運用する点にある。そのため、「資本市場全体が持続的・安定的に成長することが重要。そして、資本市場は長期で見ると環境問題や社会問題の影響から逃れられないので、こうした問題が資本市場に与える負の影響を減らすことが、投資リターンを持続的に追求するうえでは不可欠」だと、GPIFは公式Webサイトに記している。

GPIFが採用するESG指数(GPIF Webより)

 しかし、個々の企業においてESGへの取り組みが財務状況の改善につながるのかというと、「意見が分かれている」(森岡氏)というのが実情だ。つまり、企業がESGに取り組んだからといって、必ずしも売り上げが増加したり、利益の増加にはつながらない。

 ではESGは企業価値の上昇につながらないのか? 森岡氏は、「ESGはビジネスの根幹。取り組むということは土台を強化するということである。企業価値のどこに影響するのかといえば、資本コストに影響する」と説明する。

企業価値の算出に大きく影響する資本コスト

 企業価値の算出方法には各種あるが、その代表例がDCF法と呼ばれる方法だ。これは、企業が将来生み出す利益(キャッシュフロー)を合計して、企業価値とするもの。ただし、今年の100万円と来年の100万円では、金利分だけ価値が違うように、将来のキャッシュフローを割り引いて足し合わせる。

 このときに使う割引率が資本コストだ。資本コストが大きいと、将来見込まれるキャッシュフローは過小に評価され、企業価値が小さくなることになる。たとえ将来の業績が同じでも、資本コストの大小が企業価値に影響するというわけだ。

 これは企業側から見れば、出資した株主が事業にどのくらいのリターンを求めているかを指す。株主視点では、安定した事業ならば低い資本コストでも納得するし、不安定な事業ならば高い資本コストを要求する。定期預金なら低リターンでも預けるが、ベンチャー企業ならば高い利回りを要求すると考えると分かる。いわゆるリスクプレミアムだ。

 森岡氏は、企業がESGに取り組むことで資本コスト、つまり割引率が低下すると話す。「割引率が低下するのは、業績が変わらなくても、不確実性がなくなるからだ」。ガバナンスなどへの取り組みから企業の情報公開の透明性が上がり、投資家に安心をもたらす。これが、ESGへの取り組みが企業価値に反映される一つのロジックだ。

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