中国が政治利用、韓国は規制をもくろむ「ハリウッド映画」市場のインパクト世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)

» 2019年12月05日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

 米メディアはこの騒動について、「ハリウッドが中国政府に屈した」などと報じた。ただそもそも、中国の共産党政権は国外映画に対して警戒心が強い。

 中国では毎年、基本的に外国映画は34作品しか興行できない決まりがある。そこに入れた作品だけが世界第2の映画市場を誇る中国で稼ぐことができる。その枠に入るには、もちろん中国政府に批判的であればアウトで、中国政府のさまざまな「主張」を無視することもできない。ちなみに収益は中国側と分け合う必要がある。

 それ以外に、中国の企業に作品の権利を売って中国で上映するパターンもある。この種類の映画は、毎年50作品ほど輸入されているという(つまり外国映画は年間80本以上)。

政府の意向に従わないと「強烈なお仕置き」

 中国の映画市場は現在、どんどん拡大しており、近く米国を超えて世界最大になると予想されている。中国側とハリウッド側は、5年ごとに映画上映の契約を結んでおり、その契約は17年に更新されたばかりだという。いずれにしても、中国で上映したいなら、ハリウッドの映画関係者も、中国共産党の意向には従わざるを得ないのが現実である。

 従わない場合、中国政府から強烈なお仕置きが待っている。映画会社ではないが、例えば、中国でもホテルを展開する米ホテル大手マリオット・インターナショナルは18年、公式サイト内で台湾や香港を中国とは別の国であるかのように扱っていたことで、ひどい目に遭っている。同ホテルの予約などを扱うサイトが1週間にわたって当局によって封鎖された。

 マリオットのように、中国政府の気に入らない「地雷」を踏んで謝罪する世界的な企業は、ちょこちょこ話題になる。とにかく、当局の逆鱗に触れるようなことがあれば、中国国内では映画どころか普通のビジネスもできないのである。

 『アボミナブル』のケースは、世界的にも影響力のあるハリウッドが、カネのために中国政府の意向を言われるがまま取り入れた例だと言える。全てのハリウッド作品にそんな影響が及んでいると言うつもりはないが、ハリウッド側にも、中国とビジネスするにはその前提を受け入れる必要があると広く認識されているはずだ。そして中国共産党を極力、刺激しないような意識が製作段階でも働くことになる。

 中国側にとっても、世界で大々的に上映される映画に、多少でも自分たちの主張を反映できることはかなり大きな勝利だろう。中国市場のデカさがなせる技ということだ。

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