働き方改革の推進に伴い、経営企画、財務管理、人事など、いわゆる管理部門の業務の効率化が求められている。そのためにさまざまなテクノロジーが活用されているが、その中でも特に導入が遅れているのが法務関係の業務だ。
しかし、近年は少しずつ、法務とテクノロジーをかけ合わせてソリューションを提供する「リーガルテック」が広がり始めている。契約書等の法律文書作成領域では、機械学習の自然言語処理精度の向上も追い風となり、数多くのスタートアップが新規参入を果たしてきている状況だ。
リーガルテック市場は今後どのような展開を迎え、企業の法務はどう変わっていくのか。その現状や課題、今後の展望を、契約マネジメントシステムを提供する注目のスタートアップ企業、Holmesの創業者で代表取締役の笹原健太氏に聞いた。
笹原氏は弁護士として活動していたが、17年にリグシー(現Holmes)を設立し、契約マネジメントシステム「Holmes」(現ホームズクラウド)の提供を開始した。
ホームズクラウドでは、企業の契約業務全般を最適化するソリューションを提供。電子契約を始めとする契約書の作成・承認・締結といった全行程をトータルで管理できるほか、複数の契約から構成されるプロジェクト全体の進捗管理も可能となる。
他部署や他社の関係者とのコラボレーションが重視される昨今だが、ホームズクラウドでもクラウド上で関係者と交渉内容や契約条件などを共有できる。契約業務全般を素早くスムーズに進められるのが大きな特徴だ。
一見、リーガルテックといえば、契約書をペーパーレス化することのように思える。19年4月には、書面による交付が義務付けられていた「労働条件通知」の電磁的交付が解禁された。10月には国土交通省が実施する「賃貸借契約における電子書面交付」の社会実験も始まっている。
しかし、笹原氏は「契約のデジタル化は契約書のペーパーレス化とイコールではありません。ホームズクラウドは単なるペーパーレスソリューションではなく、契約マネジメントそのものの最適化を目指しています」と説明する。ペーパーレス化は手段であり目的ではない。紙をむりやり電子化するのは最適ではないと笹原氏は考えているという。
「紙はパッと書けてすぐに渡せたり、絵や図柄をすぐに描けたりと、ユーザー体験がいいのです。ITの世界にいればいるほど、紙の素晴らしさを感じます。活版印刷ができてから約600年弱たちますが、ペーパーレス化によってそれが今後数十年でなくなるとは思えません。紙もデータも一長一短なので、私たちはそれぞれのいいとこどりをして最適な契約システムを作ろうとしています」
それでは、どのような「いいとこどり」をしているのだろうか。紙のデメリットを挙げるとすれば、1つ目は「データが取れない」点だという。1通の契約書が回覧板のように各部署を回っていては、どこのフローで止まっているか分からないため、オペレーションの改善がしづらい。また、契約までの所要時間が長い場合、顧客の考えが変わって契約がなくなり、売上自体が消えるリスクも生まれてしまう。しかし、データであれば契約までのリードタイムを予測できるようになるほか、契約金額の平均を出したり、契約リスクを可視化したりできる。
紙のデメリットの2点目は「ミスの増加」だ。紙の契約書を作成する場合、Wordでドラフトを作る企業が多い。ただ、Wordは自由度が高い半面、契約の知識がなければどこを直せばいいのか分かりづらい。
「契約には条項が書いてありますが、Wordならどこでも編集できてしまいます。それに、例えば、5ページの契約書の中から5カ所しか変える必要がない契約書だと、5ページの中から変更部分を探し出すのは大変ですよね。それならECサイトのように、必要な項目を入力していくだけで契約書に反映されるほうがいい。そこをデジタル化することによって、営業や人事の現場でもミス・漏れなくスピーディーに契約業務を進めることが可能になります」
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