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5G元年は結局「から騒ぎ」に終わる? 新技術が日本を変えられない真の理由“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)

» 2020年01月07日 08時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]
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産業構造の変化起こせるかは「国民の知恵次第」

 利用者にとっても大きなメリットが感じられず、通信機器メーカーにとっても大きなビジネスにならないのだとすると、あれだけ「5G、5G」と大騒ぎしておいて、一体、誰がトクするのだろうかという疑問がわき上がってくる。

photo 世界での5G回線数拡大の予測(出典:GSMA、総務省Webサイトより引用)

 通信会社は5Gのサービス開始に伴って、大々的なキャンペーンを行うだろう。これをきっかけにサービス価格の安い、古いサービスから新サービスに乗り換える利用者が増えれば、通信会社の業績には多少のメリットになるかもしれない。だが、社会全体では、喧伝(けんでん)されている程の効果はないと思った方がよさそうである。

 米国ではすでに一部地域で5Gのサービスが本格的に始まっているが、これは光ファイバーに代表される固定通信サービスが貧弱な地域に高速接続を提供することが主目的なので、今のところ、5Gならではというサービスが立ち上がっているわけではない。しかも米国の場合、いまだに3Gを使っている人も多く、日本のように高速通信で大騒ぎするということはあまりないのが実情だ。

 だが、5Gにまったくメリットがないのかというとそうではない。むしろ使い方によっては大きな経済効果をもたらす可能性もある。その理由は、5Gの普及によってIoT(モノのインターネット)が一気に現実化し、産業構造の変化が期待できるからである。

 5Gは通信速度が速いだけでなく、遅延が少なく、多数の機器を同時に接続できるという特長がある。近い将来、ほぼ全ての自動車はネットに接続され、ネットを通じて各種サービスが提供されることになるが、5Gはこうした新サービスの基礎インフラとなる。

 ビルや工場の機器類もネットに接続することでリアルタイム監視が可能となり、メンテナンスコストの大幅削減が期待されているが、どうやってネットに接続するのかが最大の課題であった。5Gであれば、遅延がなく、しかも大量の端末が同時にネットに接続できるので、産業用機器のネット接続にはうってつけである。

 こうした通信インフラが整えば、それをベースにした新しいサービスや付加価値が生まれる可能性があり、5Gはいわば、縁の下の力持ちということになる。だが逆にいうと、こうした新ビジネスが誕生しなければ、ただ、通信規格が変わるだけで、何の変化も起きないという事態にもなりかねない。

 日本ではライドシェアなど、新しいサービスが出てくると、基本的に全否定され、禁止されてしまうケースが多いが、5Gを使った新サービスにも同じように禁止ばかりしていては、3兆円も投資した意味はなくなってしまうだろう。ネットが道具である以上、メリットを受けられるのかは国民の知恵次第ということである。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。


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