新型肺炎でマスク買い占めを「あおる」のは誰? 心理メカニズムに迫る「希少性」が消費者突き動かす(2/3 ページ)

» 2020年02月13日 08時00分 公開
[服部良祐ITmedia]

「制限されるほど欲しくなる」心理

 情報行動やメディア効果などを研究する東京大学大学院情報学環・学際情報学府の橋元良明教授(社会心理学)は「人は自由を制限されている時に自由を回復したいと考え、制限されている物に、されていない時よりも強い欲求を感じる」と説明する。

 これは「心理学的リアクタンス(心の反動作用)」という説で、「被験者がレコード曲を4種類聞かされ、その内の1枚が入手困難であると告げられると、その曲に対する好みの度合いが上昇する」といった実験結果が知られている。この作用の中でも、特に買い占め行動との関連を橋元教授が指摘するのが「希少性原理」だ。「『あと1つしかないよ』と(商品の)希少性をあおると、購買希望者が増加するなど、セールスの現場でも応用されている」。

 こうした買い占め騒動の代表例として橋元教授が挙げるのが、1973年のオイルショック時に発生した「トイレットペーパー騒動」。「こうした災害時などには、ほとんど常にと言っていいほど飲料水や食料、日常品の買い占めが問題になる。希少性原理によって『大事な物が無くならないように早く買っておこう』という心理が働く」(橋元教授)。

 加えてこうした状況下では、買い占めによって商品価格を釣りあげようとする動きも出てくる。橋元教授によると、1970年代には数の子が「黄色いダイヤ」とされて珍重され、買い占めを図った水産専門の商社がその後、逆に過剰在庫のせいで倒産する事件まで発生したという。

 では、今回のマスク買い占めを引き起こした「希少性原理」の発生源は何か。橋元教授はまず、買い占めの主体である消費者像について「恐らく、日常的に健康に気を遣い、風邪やインフルエンザに不安を抱いている層。特に家族の健康を気にする主婦層などが、購入して着用させている場合が多いのではないか。乳幼児を持ち罹患を危惧するその親や、脆弱な高齢者の介護者が特に、敏感になってマスクを求めている可能性がある」と分析する。

 多くは感染の不安や家族の健康への配慮など、善意や思いやりから発したとみられる今回のマスク買い占め。そのマスクの「希少性」を消費者の間で高めている要因として橋元教授が重要視するのが、連日のメディア報道だ。

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