新型肺炎が教える中国ビジネスのリスク パンデミックが多発する中国との付き合い方新型肺炎が教える中国ビジネスのリスク(1)(4/5 ページ)

» 2020年03月03日 05時15分 公開
[島崎晋ITmedia]

希少性に価値を見いだす食文化がもたらすリスク

 日本では、取引先を接待する場として料亭を選び、1品ずつの量は少なくとも、厳選された素材で作られた手の込んだ料理を出すところだが、中国の接待は少し事情が異なる。料理品目の多さで勝負するか、フカヒレやツバメの巣のような高級食材を連発することもあれば、珍奇な食材を出してくることもある。

 中国歴代王朝には朝貢国に対し、貿易赤字を承知のうえで、最低でも三倍の価値ある返礼品を下賜する慣例を踏襲してきた。王朝も帝政もすでに過去のものと化したが、その精神だけは現在でも幾分なりとも健在で、接待こそがそれを見せつける絶好の場。東アジアに覇を唱えていた時代の自負心がその片鱗(へんりん)を覗(のぞ)かせる瞬間である。

phot 中国の接待は料理品目の多さで勝負するか、フカヒレやツバメの巣のような高級食材で勝負することもある(写真提供:ゲッティイメージズ)

 「空を飛ぶものは飛行機以外、四本足のものは机以外」。こんな言い草もあるように、中国では絶望的な飢餓に苛まれている状況でなくとも、珍奇な食材が使われ、食卓に日本人の常識を超えた物が出てくることが珍しくない。セミやタガメといった昆虫、センザンコウやハクビシンといった野生動物、蚊の目玉のスープといった類である。

 イナゴ程度の昆虫なら日本でも食べられていたのだからよいとして、野生動物や珍奇な食材を使った料理にはどう対応していいのか困惑するかもしれない。そこは清水の舞台から飛び降りるつもりで、表情一つ変えず味わい、正直な感想を述べれば問題はない。

 筆者は四半世紀ほど前に、ハクビシンの角煮を食べる機会があったが、口当たりも味も申し分なかった。そのときは果物だけを食べる果子狸というタヌキと説明されたが、のちにSARS騒動が起きて、その料理がハクビシンだったと知ったときは驚いた。だが、ひとたびその味を知った者がやめられなくなるのも分かる気がした。

 けれども、ハクビシンはむしろ例外で、珍奇な食材を使った料理の大半は、おいしいわけでも栄養的に優れているわけでもない。極端な言い方をすれば、味はどうでもよく、一種のステイタスシンボルなのである。希少な食材を入手するには富とコネクションの2つが欠かせず、そうした料理を提供できることを誇示すると同時に、相手を厚遇する価値ある対象と認めているわけでもある。

phot 中国の「珍奇な食材」ハクビシン(Wikupediaより)

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