新型肺炎が教える中国ビジネスのリスク パンデミックが多発する中国との付き合い方新型肺炎が教える中国ビジネスのリスク(1)(1/5 ページ)

» 2020年03月03日 05時15分 公開
[島崎晋ITmedia]

 新型肺炎の感染拡大が連日のように報道されている。報道を見れば見るほど、私たち日本人は「中国リスク」を痛感させられているのではないだろうか。今回の感染拡大では、1月18日に武漢の集合住宅エリアで開催された4万世帯が参加しての大食事会「万家宴」が一役買ったことが報じられている。また、香港では同じ鍋を囲んだ親族19人のうち9人が感染したとの報道もあった。さらに、感染源の動物として、センザンコウやコウモリなどの可能性を疑う報道もなされた。

 このように今回の感染拡大は、実は中国の食文化・食習慣とも切っても切れない関係にあることがうかがえる。だが、中国とはビジネスでかかわらない、中国人との会食を避ければよいかといえば、日中経済が相互依存の関係にある現在、それは不可能なことだろう。

 歴史家の島崎晋氏は、最新刊『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ刊)で、現在に至る独特な食文化・食習慣を育むことにもつながった、中国の生存をかけた生活圏の拡大について、歴史的な経緯をクローズアップ。中国となんらかの関わりを持つ人が事前に知っておくべき教養ともいえる内容をまとめた。

 新型肺炎がもたらすリスクについて取り上げていく本連載では、まず、報道があまりなされない中国の食文化・食習慣と新型肺炎の関連性についてふれる。

phot 新型肺炎がもたらす中国ビジネスのリスクとは?(写真提供:ロイター)

感染拡大に拍車を掛けた「直箸」の習慣

 中国ビジネスを行ううえで、ビジネス以前の重要なことがある。それは、中国では昔も今も、会食がもっとも重要なコミュニケーションツールであることだ。日本で言う「同じ釜の飯を食う」と似たような感覚を、中国人は昔からもっているのだ。

 中国人と日本人は外見は似ているとはいえ、文化的には似て非なる部分のほうが多い。中国ビジネスで成功を収めたいと思うのであれば、席次をはじめ、会食に関するマナーをあらかじめ押さえておくことが求められる。

 中国には「君子は南面す」という言葉があり、南向きの席を上座とするのが基本だが、個室での会食であれば、出入り口から一番遠い席が上座である。左右では左を優先することから、次席はその左となる。逆に招待側で一番の下っ端は出入り口に一番近いところに座り、注文その他の雑用一切をこなさなければならない。

 料理の取り分けは服務員(給仕)がやってくれる店であれば問題ないが、そうでないところでは、一番の下っ端がその役を務めるか、各人で思い思いに取ることになる。この場合、取り箸を使用する習慣はなく、誰もが直箸(じかばし)で、ときにホストが自分の箸で特定のゲストの皿に取り分けることもある。

 鍋を囲むとなればなおさら、ほとんどの日本人が直箸に躊躇(ためら)いを感じるかもしれないが、中国人の考え方は少し異なる。今回の新型肺炎が終息したのち、取り箸の利用が増えるかどうかは、現時点ではまだ何とも言えないが、直箸が信頼の証である限り、衛生的な観点は二の次のままであり続ける可能性が高い。

 日本人の感覚からすると、直箸は衛生的に抵抗感を持つ人が多そうだが、中国においてはそれが厚遇の意味を持つので、嫌な顔をすることなく、ありがたく受けるのがマナーとなることを知っておきたい。

phot 中国の食文化では「直箸(じかばし)」が信頼の証だ(写真提供:ロイター)
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