ところが、私は3月になってから、いまだ添乗員としての仕事をしていない。仕方ないこととはいえ、自然とタメ息が出る。それでもなんとか生活できているのは、今年67歳になる私の銀行口座に、月10万円弱の年金が振り込まれているからだ。
しかし、添乗業務だけで生活している人はそうはいかない。彼・彼女らは少なくともゴールデンウィークまでのあいだ、収入が完全に途絶える。その後の見通しも、現時点ではまったく立たない。
知り合いの添乗員は「この先どうなるかまったく分からない。とりあえず家でゴロゴロしているしかない」と嘆いていた。また別の同業者は「仕事は全滅。もしかしたら職替えしなくちゃいけないかも」とこぼしていた。
9年前に起きた東日本大震災のときにも、添乗員の仕事はパッタリ途絶えてしまった。旅行業は、平和産業である。平穏な世の中であってこそ、人々は旅に出ようという気になるのだ。
大震災のときにはしばらくの間、日本国中に自粛ムードが漂った。そのために人々は旅行に出かけるという気分にはとうていなれず、ツアー添乗の仕事もまったくのゼロになった。そして、多くの添乗員たちの生活が破綻し、仕事に見切りをつけて、業界から去っていってしまった。特に転職がしやすい若い人ほどそうであった。
近頃は聞かなくなったが、私の若い頃は「土方(どかた)殺すにゃ刃物はいらぬ。雨の三日も降ればよい」という言葉があった。添乗員とてこれと同じだ。「添乗員殺すにゃ刃物はいらぬ。コロナ3カ月続けばよい」で、万事休すなのである。
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