なお、コンタンゴは、各種商品の特性や短期的な需給によって崩れる場合もある。例えば、穀物は原油と比較すると相当低コストで保管できる。そのため、決済期限が遠い穀物先物であれば価格が高くなるとは限らない。現に、とうもろこし先物は、22年7月限の価格よりも、22年8月以降の価格の方が低くなっている。このような現象を「バックワーデーション」という。
原油先物が美しいコンタンゴとなっていることから考えれば、「原油の保管コストは高い」という特徴が先物価格から分かる。原油の買い手は、需要急減によって原油がダブついてしまい、これを自前で保管したり処分したりする費用と、売ってしまう費用を比較検討したのであろう。その結果、自前で保管・処分するよりも、保管原油の新たな買い手に37.63ドルを支払って原油を引き取ってもらう方が合理的と、市場参加者に判断された形となる。
投機的な動きこそあるが、本質的な原油の価値を上回るコストの発生によって、WTI原油先物価格がマイナスになったということができるだろう。
そうであるとしても、なぜ米国のWTI原油だけがマイナスになってしまったのだろうか。これは、原油の受け渡し場所の立地も関係している。図表では、世界でも大きなシェアを誇る各種原油の受渡場所を示した。
ブレント原油や中東の原油では、ほとんどが海上や沿岸部での受け渡しが可能である反面、WTI原油は、テキサス湾で採掘された原油を、内陸部のオクラホマ州クッシングで貯蔵し、受け渡しを行っている。もともとWTI原油は米国の内需向けに用意されているもので、テキサス沿岸で採掘された原油はパイプラインで内陸に輸送されるのだ。
アメリカのWTI原油先物の価格がマイナスになった背景の一つとしては、海上に受渡拠点がないことにあるだろう。沿岸部に受渡場所を有する他地域では、原油を大量に輸送でき、外国のタンカー船が容易に乗りつけられる。仮にブレント原油のように、沿岸で受け渡される先物価格がマイナスになると、タンカーで乗り付けて受け渡しを受ければ、原油だけでなく、お金を受け取ることができてしまう。そうした理由で、いまの段階では沿岸部の貯蔵施設がまだオーバーフローしておらず、先物価格の下支えに貢献していると考えられる。
そうはいっても、世界的な原油の需要減退が長期化すれば、他地域についても原油がマイナス価格となる可能性も否定できない。
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