「この逆境で業界は大きく変わる」クルーズ代理店トップが挑む次の一手クルーズ市場最前線(1/2 ページ)

» 2020年05月15日 16時00分 公開
[長浜和也ITmedia]

 新型コロナウイルスの爆発的な流行は、さまざまな企業の活動に影響を及ぼしている。特に飲食店や文化活動など特定の業界に大打撃を与え、廃業を考える経営者も増えている。その中でも特に致命的な打撃を受けたのがクルーズ業界だ。主だったクルーズ船社は2020年前期の航海を取りやめ、その再開のめどはたっていない。経済アナリストたちはクルーズ業界の業績についてかなり悲観的な予測を示している。

 しかし、この状況にあっても積極的にビジネスを展開し続けているクルーズ関連企業がある。その1つがクルーズ専門旅行代理店「クルーズプラネット」だ。21年シーズンのクルーズプランの紹介や価格を抑えたクルーズプランの提供など、先に向けたビジネスを粛々と進めている。また、クルーズプランを訴求するだけでなく、クルーズ各船社が実施する新型コロナウイルス対策の情報を集約したWebページを用意するなど、クルーズの安全性を訴求する努力も怠っていない。

 とはいえ、四面楚歌ともいえるクルーズ業界でビジネスを継続していくのは並大抵のことではない。なぜ今積極的なビジネスを継続していけるのか。クルーズプラネット代表取締役社長の小林敦氏に聞いた。

クルーズプラネットを率いる小林氏とは何度か直接会っているが、現場主義でいつもアグレッシブに動き回っている。今回の取材は4月13日にテレビ会議システムを介して実施している(写真は19年7月の取材にて撮影)

── Covid-19(新型コロナウイルス感染症)の全世界的な流行は、クルーズ業界にどのような影響を及ぼすでしょうか。

小林 ダイヤモンド・プリンセスにおける感染者発生で、2月は毎日のようにダイヤモンド・プリンセスが報道される事態となりました。図らずもクルーズに対するイメージが悪くなってしまったというのは正直あると思います。

 クルーズを経験したことにあるリピーターの皆さんは、これまでもクルーズ業界が感染症対策を重視していていたことを知っているのですが、クルーズを経験したことのない人々に対しては、残念ながらダイヤモンド・プリンセスの事例が最初の印象になってしまったことは否めません。

 特に日本は諸外国と比べてクルーズ人口がまだ少なく、これから日本のクルーズ業界が開拓していかなければいけない層に対してこのような印象を植え付けてしまったことは、クルーズ業界にとって決して軽くはないダメージとなるでしょう。これは、クルーズにかかわる多くの企業で同じ声が聞こえてきます。

── クルーズ業界は、これまでも9・11同時多発テロやSARSなど新型インフルエンザの流行で大きく落ち込むときがありましたが、そのたびに復活してより成長しています。そのときと今回の違いは?

小林 同時多発テロや新型インフルエンザ流行ではクルーズだけでなく海外旅行全体の市場が落ち込みました。しかし、同時多発テロは航空機による事件であったこと、SARSにおいてはアジアで抑え込みが早期に成功し、かつ、日本国内では感染者がいなかったこと、そして、クルーズ市場が成長する矢先だったこともあって、市場は比較的早く回復しています。しかし、新型コロナウイルスの流行はクルーズ業界にとって全く初めて体験する事案です。未曽有の状況といっていいでしょう。

── クルーズ市場の復活には何が必要ですか

小林 クルーズに対するイメージがとても悪くなっています。それを変えていくには、クルーズ船がこれから実施する対策によって安全になったことを地道に説明し続ける必要があります。

 新型コロナウイルスは未知のウイルスで、船会社と政府ともに初めての経験だったこともあって、船内で多くの感染者が発生してしまいました。しかし、各クルーズ船社はこの経験から衛生基準や検査基準をより強化しています。これからは乗船時の健康チェックもより厳格化し、そのことで、検査時における船客の状況によっては乗船を断るケースが増えてくるかもしれませんが、それは、その他の船客の安全を守ることになります。加えて、船内の清掃と消毒の回数を増やすことで衛生管理を徹底させています。クルーズ船社は、それぞれ今後の対策についてWebページで公開し始めています。

── クルーズ業界全体で統一した対策の表明などはあるのでしょうか

小林 現在、主だった旅行会社が集まって意見を交換しており、そこに外国船社、できれば日本の船社にも参加していただき、今後のクルーズ市場の巻き返しをどのように進めていくのかといった提言をまとめて、国交省や観光庁に要望していきたいと考えています。

 ただ、現在は、コロナウイルス禍の収束時期もはっきりと見えない状況なので、もう少し落ち着いてから、旅行会社と船会社が一体となって動こうという話になっています。ただ、このようなことがあったときに業界として情報を発信できる組織もしくは団体の必要性を痛感しています。

── この状況にあっても、クルーズプラネットはユーザーに対して積極的にアプローチしています。

小林 リピーターのなかには、この状況が落ち着いたらクルーズに出たいと希望されている方が少なからずいらっしゃいます。また、このような状況になる前の19年後半からクルーズ船社は21年のクルーズプランを発表しています。通常この時期に翌年の商品はまだそれほど充実はしていないのですが、20年は今まで以上に半年〜1年先の商品の充実化を図っています。クルーズを夢見ているみなさんに、「選べるクルーズにはこのようなものがあります」と伝え続ける必要があると考えています。

 実際、21年シーズンのクルーズ予約動向は、例年と比べるとさすがに少ないのですが、それでも堅調です。その需要に応えるため、今後もクルーズの魅力や新しいクルーズプランをWebページやSNSで紹介していこうと考えています。現在、人が集まる説明会やイベントは開催できないのですが、従来イベントで実施していたクルーズフェアをWebの特別ページで展開する予定です。

 この状況もいつかは終息するときが来ます。そのとき、すぐ動けるように事業を継続して取り組んでいく必要があるのです。クルーズ各社も新造船の就航や期間限定の戦略的な価格設定など、21年に向けて新しい動きを予定しています。

 いま、クルーズプラネットとしては3つの重点ポイントを設定してビジネスを進めていこうとしています。それは、「リピーター」「この先の出発」「価格訴求」です。

 リピーターのみなさんは、船旅の魅力を理解されていてクルーズに乗りたいという気持ちを強く持ち続けています。そして、今は無理だけど新型コロナウイルスが収まったときを目指して、その先のクルーズを予約したいという人も少なくありません。ただ、そうはいっても多くの人が経済的に厳しい状況になるかもしれません。そのような状況でクルーズ市場を動かしていくには利用しやすい価格設定も重要になるでしょう。この逆境は、クルーズ業界が大きく変わる機会といえます。

── この状況でクルーズ各社では数多くの超大型客船が就航する計画を持っています。これは負担にならないでしょうか

小林 欧米のクルーズ市場はリピーターの占める割合が多く、彼らのおかげでクルーズ市場の回復は比較的早いという予測もあります。新造船の就航はリピーター需要を喚起すると思われます。ただ、クルーズ市場の規模が小さい日本やアジア諸国では、イメージの問題もあって特に新規ユーザーの戻りは欧米市場に比べて遅くなるでしょう。

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