最終赤字6700億円でも「手元資金は十分」とうそぶく日産 問われる内田社長のリーダーシップ磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(1/3 ページ)

» 2020年06月23日 11時27分 公開
[磯山友幸ITmedia]

 巨額の赤字に陥った日産自動車は再起できるのか。

 5月28日に発表した2020年3月期決算は、最終損益が6712億円の赤字になった。最終赤字はリーマンショック後の2009年3月期(2337億円の赤字)以来。赤字額としてはカルロス・ゴーン元会長が着任して改革に乗り出した2000年3月期の6843億円に次ぐ規模となった。

 20年前の決算では、日本の製造業としては過去最大の赤字を出す一方で、日産が保有していた持ち合い株式や工場跡地など資産を一気に売り払い、翌年度からV字回復を遂げた。ゴーン・マジックとも呼ばれたが、会計学者などからは「ビッグバスだ」と言った批判も出た。ビッグバスとは文字通り「大きな風呂」の意味で、過去の負の遺産を一気に洗い流すことで、翌期以降の回復を演出する手法で、巨額赤字は実態以上の過度なものだったと指摘された。

phot 内田誠社長兼CEO率いる日産自動車は再起できるのか(2019年2月、日産自動車本社での記者発表にて、写真提供:ロイター)

「販売台数激減」の理由は固有の事情

 では、今回も同様に、巨額の損失は「ビッグバス」なのだろうか。

 決算発表で日産は、販売活動の悪化が2291億円の利益減少要因となったとした。実際に全世界での販売台数は10.6%減と大きく落ち込んだ。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)で1月から3月にかけて世界の自動車需要が大きく落ち込んだが、日産の台数減少は新型コロナが主因ではない。中国での販売台数は1.1%減になっているが、これは19年12月までの数字が連結対象になっており、新型コロナの影響が出た2月3月の数字は入っていない。日本での販売台数も10.3%減になったが、新型コロナの影響が大きくなったのは4月以降。つまり、日産固有の問題として販売台数が激減しているという面が強い。

phot 全世界での販売台数は10.6%減と大きく落ち込んだ。中国での販売台数は1.1%減、日本での販売台数も10.3%減になったものの新型コロナウイルスの影響によるものではない(以下決算資料の出典は、日産自動車の2019年決算報告)

 そうした本業の悪化に加えて、最終赤字の多くは、「減損」によるものだと説明している。事業用資産の減損4634億円と固定資産の減損586億円の合計5220億円が赤字の主因だとした。

 固定資産の帳簿価格を引き下げる「減損」を行えば、翌期以降の減価償却費が軽くなる。もっともこれは事業を継続していた場合の話で、例えば工場閉鎖などに伴う減損ならば、将来は利益が上がらず、V字回復はおぼつかない。

phot 最終赤字の多くは、「減損」によるものだと説明している。事業用資産の減損4634億円と固定資産の減損586億円の合計5220億円が赤字の主因だとした

 普通の会社ならば、これだけ巨額の損失を出せば、手元資金が枯渇し、倒産しかねない。だが、内田誠社長兼CEO(最高経営責任者)は「現時点では十分な資金が確保できている」と述べ、資金繰りに不安はないことを強調した。もちろん、減損は基本的にキャッシュ・アウトしない、つまり資金が流出しないので手元資金には影響しない。自動車事業の手元資金だけでも期末に1兆4946億円に達し、さらに4月から5月にかけて7126億円の資金を調達したことを示し、「十分」だとしたのだ。さらに金融機関との間で結んでいるコミットメントライン(融資枠)もまだ1兆3000億円が未使用だとした。

phot 自動車事業の手元資金を1兆4946億円、4月から5月にかけて7126億円の資金を調達。金融機関とのコミットメントライン(融資枠)もまだ1兆3000億円が未使用だとした

 問題は、今後、どれぐらい自動車事業など本業でキャッシュを稼げるかにかかっているが、2020年3月期は営業キャッシュフローが2124億円の赤字(流出)、設備投資などの投資キャッシュフローが4518億円の赤字(流出)で、いわゆるフリーキャッシュフロー(FCC)は6410億円の赤字(流出)になっている。これが販売悪化でさらに拡大していけば、資金繰りは一気に厳しさを増す。ゴーン改革の時と違い、売却できる土地や有価証券はほとんどない。今回の巨額赤字は、ゴーン改革時の余裕がある「ビッグバス」とはだいぶ様相を異にしているのだ。

phot 2020年3月期は営業キャッシュフローが2124億円の赤字(流出)、設備投資などの投資キャッシュフローが4518億円の赤字(流出)、フリーキャッシュフローは6410億円の赤字(流出)になっている
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