クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

自動運転の夢と現実池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

» 2020年07月06日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 あなたは自動運転社会がもうすぐやってくると思っているだろうか? なんて思わせぶりなことを書いておきながらなんだが、それはもう定義による。つまり自動運転って何なのだというお話である。

 アプリから予約したロボタクシーが私の前でスッと止まった。もちろん運転手はいない。センサーにスマホをかざすと、予約ナンバーを照会して、ドアが自動で開いた。

 乗り込んでシートベルトを閉めると、合成音声が乗車の礼を述べ、引き続き設定した目的地の確認を求めた。私が音声で同意し、出発の許可を与えるとクルマは走り出した。

 私は鞄からタブレットを取り出して、リモート会議にアサインしてミーティングに集中した。

 というSFじみた世の中なら当分来ないだろう。無粋の極みではあるが、何より法律が許さない。世界の運転条約には、国連傘下に、ジュネーブ条約とウィーン条約という2つの枠組みがあって、批准各国はこれらのルールに準拠して国内の運転関連法規を作っている。その中で、無人運転の禁止がうたわれているのだ。厳密にいえば、「車両には必ず運転者がいなくてはならない」と規定されている。

自動運転の主役の1つを担うことが期待されるマイクロカー

国際ルールとの整合性

 表の中にあるWP1というグループは、自動運転を進めたくて、このルールを何とかしたいグループだ。現在「リモートで運行状況をチェックしている人がいれば、運転者がいるとみなす案でどうだろうか?」と提案して、各国の同意を求めているが、ちっとも進まない。

道路交通に関する条約の締結国

 それはそうだ。自動運転ができるようになってメリットがある国なんて、先進国のそのまた一部の自動車生産国の、さらに技術的にリードしているような国々だけだ。数多い発展途上の国々にとって、それに合意することに何のメリットがあろうか? なのでほとんどの国がこの提言に興味なし。というか「お前らがもうかる話に賛成すると、何してくれるの?」という下世話な流れだ。地獄の沙汰も金次第。国連傘下組織と考えると、さもありなんという話になる。

 この状態に収拾を付けるのに何年かかるのか、というよりそもそもまとまるのかすら怪しい。しかも法案ができて施行されるまでには時間がかかるし、その先には各国の法改正の手順が待っている。普通に考えて2年や3年でできるようなことではない。

 テスラのCEO、イーロン・マスクは「2020年には完全自動運転のロボタクシー事業を開始する」と宣言していたが、その20年はすでに残り半年。法整備もできてないものをどうするつもりなのだろう? ということで、事業家が投資を募るための夢の未来の話と、本当に社会課題を解決する話はキチンと分けて考えるべきだ。

 こういう電子ガジェット的未来感は、人々をワクワクさせる効果はあるかもしれないが、社会問題の解決には直結しない。技術というものは多くが、社会が持つ問題を解決するべく開発されるものなので、時価総額を暴騰させる資金集めが目的である場合を別とすれば、まずは社会の側の問題を把握しなくてはならない。

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