在来線の値上げも!? 4180億円という民営化後最大の赤字に転落するJR東日本の惨状磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(2/3 ページ)

» 2020年09月29日 13時51分 公開
[磯山友幸ITmedia]

1500億円のコストダウン実施

 資金繰りを付けて耐えるだけでは不十分だ。現状では新型コロナの終息が見えておらず、売上高の減少がいつまで続くか分からない。再び感染爆発が起きれば、鉄道の利用者の回復は見込めない。22年3月期以降も鉄道収入が新型コロナ前に戻るとは考えにくく、当然、コストを削減して、赤字を抑える努力も必要になる。

 9月17日の決算見通しの説明会でJR東日本は、今年度1500億円のコストダウンを行うことを明らかにした。賞与の減額や社員数の減少で、単体の人件費を304億円圧縮するほか、動力費を45億円、修繕費を51億円圧縮するとしている。そのために、在来線の最終電車の時刻繰り上げを行って人件費を減らすほか、夜間の点検の時間が長めに確保できることによる作業の効率化などでコストを圧縮する。

phot JR東日本は1500億円のコストダウンを行う(JR東日本「2021年3月期 業績に関する説明会」の資料より)

 新型コロナ対策で、「密」を避けるために、通勤時間帯の分散化を呼びかけている。今後、時間帯別の運賃の導入を検討すると報じられている。鉄道会社はピーク時に合わせて車両や従業員を抱えており、乗客が分散すれば、車両投資や人件費の圧縮につながるからだ。

 そうしたコストダウンをしても、利用客が戻らなければ、単体の営業費用だけでも1兆7000億円に達する鉄道事業の黒字化は厳しい。新型コロナ前の利益を出そうとすれば、4000億円規模のコスト削減が必要という指摘もあり、そうなれば、本格的な人員圧縮など合理化に踏み切る必要性も出てきかねない。

 それができない場合、もう1つの選択肢は運賃の値上げだ。利用者が減った分を値上げでカバーできれば、赤字から脱出できる。

 通勤に使われる在来線の場合、値上げをすれば、日々利用する消費者の財布を直撃する。新型コロナのまん延による業績悪化で、年末の賞与が減ったり、残業代が減ったりするなど収入が減少する可能性が高い中での値上げには強い反発が起きそうだ。

 また、新幹線など中長距離での運賃を引き上げれば、航空会社や長距離バスなどとの価格競争に負け、利用者がさらに落ち込むことにもなりかねない。

 合理化も進まず、値上げもできないとなると、頼みは「政府」ということになる。欧州では政府が鉄道会社に助成金を出すなど、救済措置を取る動きもある。ドイツ政府はもともと国営だったドイツ鉄道に対して、支援を行っている。料金の値上げを阻止し生活者を守るというのが建前で、電気料金の引き下げや消費税率の引き下げと共に行っている。もっともドイツでも旧国営企業を国が支援することには反対の声も根強い。

 オーストリアでは、ロックダウンが行われた4月から、ウィーン・ザルツブルグ間で同じ線路の上を運行する民間鉄道会社2社に国が資金を供出、最低本数を運行するよう契約を結んだ。

phot 利用客が戻らなければ、単体の営業費用だけでも1兆7000億円に達する鉄道事業の黒字化は厳しい(JR東日本「2021年3月期 業績に関する説明会」の資料より)

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